(過去記事1)の続き.

 

 今の専門家養成は次のようなモデルの上に成り立っている.

 

 一人の人間が産まれて,18才までは一般教養を身に着け,それから20代前半から中盤までの4-6年で専門的訓練を受けて専門家としてスタートし,結婚し子育てをし家庭生活を充実させながら,毎日8時間睡眠と適度な運動をし生活を楽しみつつ,専門家としての経験を積みながら,65才頃まで現役専門家として社会に貢献し続ける.

 

 医師は一年で一万人の新規参入者,法律家なら年間1500人程度の新規参入者を想定している.そしてそのくらいの数の供給がありえる程度に資格試験の難易度・分量は調節しているわけだ.

 日本国内で10年間に一人の割合で平均50年間の専門的訓練を必要とするような専門知識体系というのは,職業集団のライセンスとしては成り立たないわけだ.

 医学研究者としては,現状のライセンス持ちの医師が短時間で習得できるレベルの範囲で標準治療を設計していくわけだ.癌にしろ他の病気にしろ.

 法律にしたって,日本の裁判官3000人,弁護士4万人が使いこなせる程度に複雑度を調整しているわけである.

 

 そして専門家も年を取れば引退するし死ぬ.だから毎年新規参入者を必要とする.

 

 しかし,もしここに睡眠時間も食事時間も必要なく,疲れることなく,常人の何倍ものスピードで読むことが出来る個体がいたとしたらどうだろう?しかも死なない.老いない.いちど覚えたことは忘れない.

 

 機械(人工知能)はそれが可能なのだ.

 

 専門性とは,人間社会の中で,人たち同士が協力し合うための方便である.人は時間が限られているので,それぞれに専門領域を割る振ってやって,医師でも裁判沙汰になれば弁護士に相談に行くし,弁護士も家で電気工事が必要となれば電気工事士に仕事を依頼する.

 

 しかし,一人が全部できたらどうだろう.医学・法律・電気技術・公認会計士・弁理士・不動産管理士・土地家屋調査士・社会保険労務士・中小企業診断士・そのほか,日本国にある国家資格313制度すべてを取得したうえで,最新知識を常にアップデートしていたら.

 既に最新の知識を持っている側だって,いちいち論文に英語や日本語で書いて人間に読んでもらって,講演や研修でいろんな人間に教えて回るなんて大変な作業だ.

 

 機械にインプットしたほうが,人間に教えるより楽で正確だ.

 

 機械には入力できるが人間には教えにくいものはあるだろうが,人間には教えられるが機械には教えられない者は無い.客観性があって再現性がある者は必ず機械化が可能だ.

 

 機械化できないけど人間には教えられるものなんて,宗教だ.

 

 そして従来は,オセロ対戦AI, 将棋対戦AI, 囲碁対戦AI,と個別に作ってきた.それぞれのゲームで強い人に強さの秘訣を教わってそれを機械に教えてきたのだ.

 一昔前の将棋AIには,プロ棋士の棋譜を沢山入力していた.しかし,今はそんなことはしない.AI同士で対戦して彼らだけで学習して強くなるのだ.江戸時代から,あるいは東京将棋連盟(現:日本将棋連盟)発足した1924年9月8日から現在まで100年以上にわたって積み重ねてきた将棋の戦法は,現在の将棋AIには全く役に立っていない.

 

 今は汎用型ゲームAIというのがある.将棋でも囲碁でも任意のゲームのルールを入力するのである.すると自分同士で対戦シミュレーションし,瞬く間に強くなってしまう.人間なんか足元にも及ばない.

 

 人間は将棋,囲碁,オセロとゲームの種類によって専門性が分かれる.将棋の藤井聡太八冠が囲碁の井山裕太(王座・碁聖・十段・竜星)に囲碁で勝てないのだ.しかし井山も藤井に将棋では勝てない.これが専門性だ.

 

 歴史を研究するのに,一人の人間が全地域全時代をカバーすることは不可能だ.だから地域別,時代別に歴史家がいるのだ.江戸時代のくずし字も古代ギリシャ語もラテン語も全部習得するなんて一人の人間には不可能だから分担するわけだ.

 同時通訳者や翻訳者だってそうだ.世界人口の半分以上は23の言語で通じると言うが,それらのうちの2言語の取り方は23*22/2=253通り.253種類の専門家が必要だった.しかしこれからは1つのシステムで全言語間の通訳を対応する.

 

 専門家の数が増えてくれば,専門分野はさらに細分化される.

 

 今まではまさにこの現象が起こってきたのだ.

 

 しかし,これからは時代が逆流する

 

 AIに専門性は必要ない.寿命も加齢も睡眠も健康も疲れも恐怖も何もない.

 

 細分化されてきた専門分野が統合化されていき一つになっていく.

 

 ひとつのAIに何でも入れればよい.

 

 ChatGPTはそのような発想で開発されている.

 

 何でもできることを目指しているわけだ.英会話教師にもなってくれるし,法律相談も出来る.数学の問題も解いてくれる.ニュース解説も出来る.絵もかいてくれるし,歌ってもくれる.作曲も作詞も出来る.

 

 

 こういうことを否定的に感じる人も多いと思うが,私はこれは大歓迎だ.

 

 本来,仕事とは人が人を助け合う事だ.カーストをつくったりマウンティングをとったりするためのものではない.

 

続く

 

 『人工知能が資本主義社会を変える』(過去記事1)の続き. 汎用型人工知能(AGI),人工超知能(ASI)が発達すると, 計算機の知能は人間を超える. ひとつのコンピュータネットワークが一人の専…リンクameblo.jp


 

(過去記事1)