(過去記事1)の続き

 
自閉症スペクトラム者たちの集団の方が強くなる話をしよう.
 

多様性予測定理とか集団的知性と呼ばれるものがある.

 

上の動画の冒頭0:49からでている例だと,これ.

 

(例1)

1906年イギリス・プリマスでの家畜見本市.

牛の重量当てで800人が参加した.

それぞれが牡牛の重量を紙に書いて投票し,実際の重量と一番近い人が賞を受け取るもの.

参加者800人の中には畜産農家や食肉店など専門家もいたし単にギャンブル好きな素人もいた.

正解体重は1198ポンド.

賞を得たのは畜産農家(専門家)で1207ポンド.

参加者の優生学者フランシスゴルトンは参加者の予想紙を主催者から手に入れ参加者の平均を計算したら,

1197ポンドだった.

優勝者よりずっと正確に正解を当てた.

 

(例2)

1987年シカゴ大学

ガラス瓶の中のジェリービーンズの数を学生56名にぱっと見で当てさせた.

正解は850個.

学生の平均は871個とたいへん近かった.

 

(例3)

米国クイズ番組・クイズミリオネアの4択クイズ.

チャレンジャーの正解率は約65%.

スタジオ観覧視聴者が多数決で決めると91%.

 

 つまりは,(例1)が一番分かり易いが,一人の専門家よりも素人含めた多数の平均値の方が正しいという事.

 

集団的知性

 

先の動画の7:47付近で解説されている

集団の誤差=(個人の誤差の平均)-分散

 

は分かりにくいので,ここで改めて書こう.

 

つまりは次の命題だ.

 

(命題)

実数をとる確率変数Xと定数aに対し,

(E[X]-a)^2=E[(X-a)^2]-Var[X]

ここでEは平均でVar[X]:=E[(X-E[X])^2].

(証明)

Var[X]=E[(X-E[X])^2]

=E[(X-a+a-E[X])^2]

=E[(X-a)^2+(E[X]-a)^2+2(X-a)(a-E[X])]

=E[(X-a)^2]+(E[X]-a)^2-2(E[X]-a)^2

=E[(X-a)^2]-(E[X]-a)^2.

(証明終り)

 

aを実際の正解値とすると,集団の平均E[X]と正解の誤差は

個人と正解の誤差の平均より小さくなる

ということで西岡通氏はこれを集合知の定理としてことさら強調しているが,

aは正解でなくても定数なら何でもなりたつので,私はこれはことさら

集合知の定理と呼ぶほど重要なものとは考えていない.

 

ただ,この動画の8:53であげている,集合知・多様性予測理論が成り立つ4条件が面白い.最初の2つは似ているので私は4つでなく3つにまとめたい.

1.多様性・分散性(専門家だけでなくいろんな人がいること.異なる事前知識)

2.集約性(意見をまとめるシステム)

3.独立性(他者の意見に流されない.縛られない)

 

そしてアメリカの社会学者スコット・ペイジ曰く,

優れた群衆が愚民の集団になるのは多くの場合,独立性が保たれない場合である.

 

なるほどね.

忖度希求型は3番独立性が保たれていない.

 

そういう意味で自閉症スペクトラム者は独立性があるので強いわけだ.

 

多種多様な人材がいて,それを許容することが重要.

 

学校という組織は愚民の集団をつくるようにできている.

ただ,学校の生徒集団としては何の目的も持たない集団なので(せいぜい生徒会くらい.それも校長に逆らえない)愚民になっても学校自体は困らないのだ.

 

 1で専門家と書いた.これはカーネマンのいうところの専門家とは違う(過去記事2).

 カーネマン式専門家とは,規則性を発見・習得した人の事だ.

 科学技術の世界でいう専門家はこれだ.

 

 ところが,教育・療育・福祉・社会学などでいう専門家は違う.

 規則性など発見していないのだ.

 たんにある固定されたルール・思想を植え付けられた人たち,という意味である.だから専門家は前提知識が固定されているという点で多様性は無い.

 

 既知の科学技術と違い,社会学・政治などでは客観的に証明される事実というのは大変少ない.だから多くの非専門家が口を出すことが重要である.

 

 これはルソーの思想につながる.一部のエリートが知性を独占するのではなく,多くの人が読み書きを習い,聖書にない新たな知見を発見し広めていこうという思想である(過去記事3).

 

  科学においても、既に発見された世界ではカーネマン式専門家に従うべきだが、未知の領域においては、いろんなバックグラウンドの多くの人たちが取り組むべきである。

 これにおいて、学校歴とか階級は社会にとって邪魔になる

 上の第三条件独立性を阻害してしまうからだ。

  (過去記事4)で取り上げたイグノーベル賞でもそうだった。科学の発見は科学者のキャリアに関係なく偶然の要素が大きい。多くの人がいろんなアプローチでやることで成功率が高まる。湯川秀樹がノーベル物理学賞の中間子を発見できたのもそうだった。その頃欧米では大御所が、発見されてない新粒子を仮定して説明するのは良くないと主張していて、若手は逆らえなかったのだ。1934年大阪にいた26-27歳の湯川にはその大御所の声が届いていなかったので欧米にない自由な発想が出来た。


 昨日今日行われたロシア大統領選は独立性が保たれたか疑問だ。


 

 

 

 

 

 

 

(過去記事1)

 『集団としての強さ・自閉VS忖度希求1』自閉症スペクトラム者の正反対を忖度希求者と呼ぼう. 『普通という異常 健常発達という病』(兼本 浩祐):講談社現代新書 製品詳細 講談社BOOK倶楽部ADHD…リンクameblo.jp


(過去記事2)

 

 

(過去記事3)

 

 

(過去記事4)