(過去記事1)で
中世キリスト教パラダイム
神のために生きる
から
人権パラダイム
各人が幸福の権利を持つ
へとシフトしたことを述べた。

その考えはホッブズ、ロック、ルソーへと段階的に発展していったが、最初に社会に実装したのは
人間に本来備わる自然権をうたうバージニア権利章典(1776.6)、
基本的人権をうたうアメリカ独立宣言(1776.7)や
フランス人権宣言(1789.8)
である。

フランス人権宣言(1789.8)
第6条 法は一般意思の表明である。すべての市民は自ら直接またはその代表者によってその形成に参加する権利を持つ。法は、保護する場合にも、処罰する場合にも、すべての者にとって同一でなければならない。すべての市民は、法の目からは平等であるから、その能力に従って、かつ、その徳性と才能以外による差別をうけず、すべての公的な位階、地位、職務に等しく就く資格を有する。
https://worldjpn.net/documents/texts/pw/17890826.D1J.html#:~:text=第6条%20法は,同一でなければならない%E3%80%82


 そう、フランス人権宣言の人権は差別されてはいけないが、それは生まれや既得権益による差別の禁止であって、能力は別なのである。


 学制広布の半年前に刊行された福沢諭吉のベストセラー学問のすすめ(1872.2)。その冒頭で

人は天の上に人をつくらず天の下に人をつくらず

というセリフが有名であるが、これは世間の他の人が言っていることとして引用され、福沢の主張ではない。彼の主張は、そうは言っても実際に人には上下がある、その上下は能力差によるものであり、学問をすることで能力を付けて社会的上位を目指そうという自己啓発本なのである。

 特に家禄制度を廃止され地位を失った元武士階級が役人、教員、警察官など再就職先を探すべくこの本に感化された。


 戦場では金で雇われた傭兵は弱い。敗勢になれば自分の命が惜しくて逃げるからだ。武士は主君に忠誠を誓う。戦場で命を賭けて戦えば、仮に戦死しても、主君は彼らの子孫を厚遇する。かくして武士は世襲制となり先祖の功績としての家禄が与えられる。勇敢に戦死した武士の倅より、戦場で逃げた隣の爺さんの倅を主君が厚遇していたら、世間が許さないのだ。

 しかし2世紀半も戦争が無くなると人々の意識も変わる。隣のうちの体が弱そうで賢くもなさそうな武士の10世代前の先祖が関ヶ原でどれだけ武勲を上げたかなんてもはやはっきりしない。


 明治維新はフランス革命に影響を受けているし類似点も見つかる。


 人間の平等を謳っているが、能力差による差別は禁止せずむしろ奨励しているわけだ。


 学校制度というのはそのような社会的機運のもとで産まれたのだ。


 国家が要請する方向での能力を高めた人材を作るための組織が学校である。読み書きできる役人、兵士、そして工場労働者らを養成するのが目的だ。


 ルソーらの社会契約説でうたうところの

生まれながらにしての幸福を追求する権利を全ての人がもつ

という観点は日本は薄かった。

フランス人権宣言にしても、国家のためにすすんで能力を発揮しようとする人々を主に対象にしている。


 障害者らのことは眼中になかった。


 しかし学校制度が出来ると、その基準のもとで能力の劣る者の存在が明確になってきた。


 国家にとって有害なものとして障害者たちを排斥することが行われた。


 ユダヤ人虐殺の2年前より始まるドイツのT4作戦(1939-1941+)が有名だが、ここまで過激ではないにしても似たようなことは先進国のほとんどで行われていた。それも科学の名の下に正当化されてきた。

 日本でも優生保護法から障害者とハンセン病患者への矯正不妊手術の条文が削除されたのは1996年である。


 1998年国際刑事裁判所は強制不妊手術を

人道に対する罪

とした。


 30年弱前までは障害者に対する認識はこうであった。僅か30年といおうかもう30年と言うべきか、


 今から見ると昔はかなり酷いことをしていたと感じるが、30年後2054年から2024年を振り返ると、今の我々はかなり酷い間違いをしている可能性がかなり高い。


 国連からインクルーシブに逆行していると批判された日本。障害者は普通級を自由意志で選べますと嘘の回答をする日本の官僚。中学生に時計の読み方を毎年教える支援学級。小学校で教育機会に恵まれなかった中学生に教えるのならまだしも、6年以上も毎年同じことを強制され続ける教育虐待。これって教育ではなくて隔離ではないだろうか?(過去記事2)

 ナチスの時代の先進国でも、社会的に良かれと思ってT4とか断種をやっていたわけである。自分は悪人で悪事をなそうという意識ではしてなかったはずだ。そこがむしろ怖いところだ。




(過去記事1)


(過去記事2)