(過去記事1)から解説しているCAPM(資本資産評価モデル)。

投資の世界でよく出てくるアルファ、ベータ、トレーナーレシオの定義を行う。

シャープレシオは、実数値確率変数Xに対し

SharpRatio[X]:=(E[X]-r_f)/δ[X]

で定義した。ここでδは標準偏差、r_fは無リスク資産収益率。

CAPMの主張は、(過去記事1)系2より、

SharpRatio[φ・r]=Corr[φ・r. V・r] SharpRatio[V・r]       (*11)

であった。

(過去記事2)の分離定理で説明したように、

上の式のVは

任意の正の実数値c>0に対して、

Ψ_i:=c V_i. (i <>f)

Ψ_f:=1-c(1-V_f)

と定義したΨで置き換えても成立する。

以下では、慣例に倣って、c=1/(1-V_f)として、V・rの代わりにΨ・rを使い、Ψ・rを

m

と書く。

ここで

β[X, Y]:=Cov[X,Y]/Var[Y]

と定義する。これをベータと呼ぶ。

共分散の線形性Cov[aX+b, Z]=a Cov[X, Z]+.b Cov[Y, Z]より、ベータも第一成分で線形性が成り立つ。

つまり

β[φ・r, m ]=φ・β[r, m ]

と書ける(・は内積で、右辺のベータはベクトル)。


TRatio[φ・r]:=(E[φ・r]-r_f)/β [φ・r. , m ]

と書く。これがトレーナーレシオ(Treynor ratio)である。

(*11)から、

TRatio[φ・r]=E[m]-r_f

となる。つまり、

トレーナーレシオはポートフォリオφに依存しない定数である。


 もしもトレーナーレシオが定数でないとしたなら、市場がCAPMの条件を満たさないことを意味する。


e:=φ・r-r_f-β [φ・r. m](m-r_f)

とおき、

α[φ・r]:=E[e]

とします。これをJensenのアルファと呼ぶ。

(*11)より、

α[φ・r]:=E[e]=0

となるはずです。

もしもこれがゼロでなかったならば、CAPMが成立していないことになります。

アルファもトレーナーレシオも、CAPMからのズレをφが検知している量を表しています。βの定義により、

Cov[e, m]= Cov[φ・r, m] -β [φ・r. m]Var[m]=0

となり、二つの確率変数eとmは独立であって、

共分散の線形性Cov[aX+b, Z]=a Cov[X, Z]+.b Cov[Y, Z]より、

Var[φ・r]=(β [φ・r. m))^2 Var[m]+Var[e]

=(β [φ・r. m))^2, Var[e])・(Var[m], 1)

となり、φ・rの分散が、mの分散成分と、mに独立な成分に分解できる。

Var[e]をφ・rの個別リスクと呼び、Var[φ・r]-Var[e]をシステマティックリスクと呼ぶ。


解説


(過去記事3)(3)でも引用した以下の(サイト1)の最小二乗法の公式を使おう。

二つの確率変数(X, Y)で最小二乗法で近似直線を求めると

Y=a+bX

b:=Cov[Y,C]/Var[C,Y]

a=E[Y]-b E[X]

となる。

X=m-r_f, Y=φ・r - r_f とおけば、

φ・r_f=β[φ・r] (m-r_f) +  α

となります。

 CAPMの前提が成り立っていれば、理論上は

α=0

です。

 個別銘柄証券や特定のポートフォリオをφ・rとして、mをインデックスファンドとみなして、過去のデータでxy 平面にプロットして最小二乗法で近似直線

Y=A+B X

を求めます。

このBは上のβと同じになります。Aは実測上のαであり、CAPMの前提が成り立っていれば理論上はゼロになるはずです。

もしαがプラスだったとすれば、過去では理論上より良い利益をφは出したことになります。例えばφ・r=r_i とすれば、資産iは市場の予想を超える利益を出している、言い換えると、市場平均mでは資産iのV_iを過小評価しているということを意味する。つまり資産iは割安と考えることもできる。

 あるファンドマネージャーが選んだφでαがプラスならば、彼は市場平均予測より正しい予測をしていた指標と考えることもできる(いや、運にすぎないと思うけど). 


 ベータ値について。個別リスクは市場mと独立なのでφを分散投資することで消す事ができるが、市場mの分散がある限り、φ・rの分散は市場リスクVar[m}に比例する項を含み、その係数が(β[φ・r , m})^2 である。

 だから、ベータは市場リスクに連動する割合と考える事ができる。ベータが大きければそれだけ市場の変動リスクか、影響を受ける。ベータが大きければ、リターンE[φ・r]-r_f は大きくなるが分散Var[φ・r]も大きくなる、

ベータが大きければハイリスクハイリターン、

ベータが小さければローリスクローリターン

というのはこのような意味である。

 そういう意味で、βもリターンの標準偏差と同様に変動リスクと考える事ができる。

リターンの標準偏差というリスクあたりのリターンがシャープレシオであり、

βというリスクあたりのリターンがトレーナーレシオである。

 

トレーナーレシオは理論上コンスタントでφに依存しないはずだが、これが大きいということは、市場に歪みがあった事を意味する。

 αがプラスは、市場予測よりリターンが高かったことを意味したが、

 トレーナーレシオが市場リターン(E[m]-r_f)より大きければ、市場予測より、βリスクあたりのリターン(E[φ・r]-r_f)が大きかったことを意味する


 とは言っても、α、β、トレーナーレシオ、シャープレシオは全て過去のデータを分析して現在から解釈したもの。未来の予測はできない。



(サイト1)




(過去記事1)


(過去記事2)


(過去記事3)