(過去記事1)では,年率リターンの2つの定義の違いを解説した.
どの意味で使っているのかを理解しておかないと錯覚をおかすことがあるので注意が必要だ.
年率とかリターンとか利回りとか言うが,それだけでは定義の違いははっきりしない.
一年目で資産が前年の1+m_1倍,
2年目で資産が前年の1+m_2倍,
...,
N年目で資産が前年の1+m_N倍
となったとき,4つの定義を書く.
ーーー(ここから)----
(1)年率リターンの算術平均は
(m_1+...+m_N)/N
であり,
(2)年率リターンの相乗平均と言ったら,
((1+m_1)....(1+m_N))^(1/N)=1+M
としたMの事を言うのが普通だと思う.
(3)近似年率リターンを次で定義しよう.
Y_i:=log((1+m_1)…(1+m_i))
とし、
(N+1)点(0, 0),(1,Y_1).,,,.(N, Y_N)
を(x,y)平面にプロットし最小二乗法で近似直線y=Ax+Bをもとめ,
e^A=1+M
としたMを近似年率リターンと定義する.
具体的には
A=Cov(v,w)/Var(v)
である(ここでCovは共分散,Varは分散で,N+1次元ベクトルv:=(0, 1, ..., N), w:=(1, Y_1,…,Y_N)とする.各要素が等確率).
証明は以下のサイト参照.
(4)年平均利回りを
(1+m_1)....(1+m_N)=1+NB
としたBの事とすることが多いと思う.下のサイトでもそう定義している.
ーー(ここまで)----
以上で4つの年率リターンの定義が揃った.(配当込みのトータルリターンとか他にも定義の仕方はあるだろうが、それはおいておく。)
(2)が実態を表していると思う。(3)は上のAの計算をちゃんとやると分かるが,(3)のAで、
e^A=(1+m_1)^(p_1) (1+m_2)^(p_2)…(1+m_N)^(p_N)
(p_1+...+p_N=1)
という形に書け、0<c<1を定数としてNが無限大へ飛ぶ時、
i=cNなら,
比p_i:6c(1-c)/Nは1:1へ収束する.端っこが過小評価,i=N/2のデータが過大評価になりやすい.
実際は(3)より(2)の方を多く使う。5年間ぐらい短い期間では尚更(3)より(2)の方が実態をよく表している。
実際には(4)がよく使われているようだ.
しかしこの(4)の定義も(1)と同様に曲者だ.
(2)の相乗平均Mを使うと,
1+NB=(1+M)^N=1+NM+(N^2/2)M^2+....
だから,Mが非常に0に近いときはB=Mと近似できる.
しかしM^3以降を無視しても
B>M+(N/2)M^2
であり,平均利回りBは相乗平均リターンMより大きめになってしまう.ここがいやらしいところだ.
例えばN=10でBが10%の時,
M=(1+NB)^(1/N)-1=0.071773
だ.
相乗平均リターンで7.1%なのに,平均利回り10%と高めに盛ることが出来る.
2年だと,平均利回り10%の2倍で20%かと思いきや,
((1+NB)^(1/N))^2=1.148698...
だから,1.149倍で,2年分の利回りは14.9%と考えるのが妥当なのだ.
お分かりだろうか?指数関数的膨張は後半になればなるほど大きくなる.だからリターンも後の方が大きくなる.それなのに年数Nで均等に割ってしまうのが誤解を招く.
(2)(3)ではなく,(1)(4)を見せることで,実態よりもっと高い利回りがあるように見せかけることが出来る.数学的に嘘はついていない.ちゃんと理解して計算すれば分かるのだが,ペンもPCも持たずにテーブルごしに証券マンと対面で話すときには騙されてしまいかねない.この4つの定義をごっちゃにしてはいけないのだ.
専門家の口車に載せられてはならない.言葉の定義を自分の頭でちゃんと確認して,自分で再計算して見なければ実態は分からない.これは自戒でもある.
(過去記事1)