(過去記事1)ででてきたCAPM(Capital Asset Pricing Model)について.

現代ポートフォリオ理論の最大の成果ともいわれ,1990年ノーベル経済学賞(H.W.Markowitz and W. F. Sharpe)にもなったCAPMの定理(1960年代).この内容を数学的に厳密に書く.本質はたったこれだけである.

 

大学一年生の微分(ラグランジュの未定乗数法)の知識程度で証明まで読める(証明要らないならラグランジュの未定乗数法は必要ない).

 

 経済学的な説明(この数学的モデルの解釈と限界)は次回以降にし,とにかく数学的内容だけを厳密に書く.

 

(青字で書いた部分は数学的には無視してよい。a ε Aで、要素aが集合Aに属することをさす)

ーーー定理1ーーーーーー

Rを実数全体の集合とする.

I, Pを空で無い有限集合,(Iは資産全体の集合,Pは全投資家の集合)

V ε Δ:={x:I→R  |  1=Σ_{iεI}x_i}

とする.Vは成分和が1となる(|I|次元)実数ベクトルである.(成分V_iは資産iの初期価値)

W: P→R

を(|P|次元)実数ベクトルとする.(成分W^{(p)}は投資家pの初期全財産額)

r: I→ R

を確率ベクトルとする.(各成分r_iが確率変数で,資産iの収益率.初期のV_iが(1+r_i)V_iとなる.)

任意のpεPに対して

Φ^{(p)}εΔ

とし(資産家pの各資産への投資率・ポートフォリオ)

任意のiεIに対して

V_i=Φ_i^{(*)}・W

を仮定する(・は内積).(全投資家の資産iへの投資額の和は資産iの総額)

また

α: P→R

とする.

各pのポートフォリオΦ^{(p)}は

E[Φ^{(p)}・r]=α^{(p)}

のもとで,(αもE[r_i]もCov[r_i,r_j]も全て知ったうえで)

Var[Φ^{(p)}・r]が最小になるように設定されているとする.

(ここでEは平均,共分散Cov[X,Y]:=E[(X-E[X])(Y-E[Y])] , 分散Var[X]:=Cov[X,X])

 

以上の仮定の下で,ある実数の定数L, Mが存在し,

任意のψεΔに対し,

L E[ψ・r]+M=Cov[ψ・r, V・r]                                  (*1)

---------定理1終り---------------------------------------

ーーーー系2ーーーーーー

定理1の仮定の下,

あるfεIで,

Var[r_f]=0                             (*2)

かつ

Var[V・r]≠0かつVar[ψ・r]≠0

ならば,

SharpRatio[ψ・r]=Corr[ψ・r, V・r ]SharpRatio[V・r]

(ただし,

SharpRatio[X]:=(E[X]-r_f)/√(Var[X]),

Corr[X,Y]:=Cov[X,Y]/(√(Var[X])√(Var[Y]))

と書いた).

特に,

|SharpRatio[ψ・r]|≦|SharpRatio[V・r]|

ーーー系2終りーーーー

 

ーー系2の証明ーーーーーーー

(*2)より

E[r_f]=r_fは定数だから(*1)より,

M=Cov[V・r,r_f]-LE[r_f]=0-Lr_f=-L r_f

0≠Var[V・r]=Cov[V・r, V・r]=

=LE[V・r]+M  (by (*1))

=L(E[V・r]-r_f)

よりL≠0.

SharpRatio[ψ・r]

=(E[ψ・r]-r_f)/√(Var[ψ・r])

=Cov[ψ・r, V・r] /L√(Var[ψ・r])

=Corr[ψ・r, V・r] (√(Var[V・r]))/L

=Corr[ψ・r, V・r] Var[V・r]/L√(Var[V・r])

=Corr[ψ・r, V・r] (E[V・r]-r_f)/√(Var[V・r])

=Corr[ψ・r, V・r]SharpRatio[V・r].

これで一つ目の主張が言えた.

コーシーシュワルツの定理(ベクトルの内積はベクトルの長さの積以下)より,

-1≦Corr[X,Y]≦1だから(注1),二つ目の主張も言えた.

ーーーー系2の証明終りーーー

 

ーーーー定理1の証明ーーーー

各pεPに対し,ラグランジアンを

L^{(p)}(Φ_*^{(p)}, λ^{(p)}, μ^{(p)}):=(1/2)Var[Φ_*^{(p)}・r]-λ^{(p)}(E[Φ^{(p)}・r]-α^{(p)})-μ^{(p)}((Σ_{iεI}Φ_i^{(p)})-1)

=(1/2)(Σ_{i,j}Φ_i^{(p)}Φ_j^{(p)}Cov[r_i,r_j])- λ^{(p)}(Σ_i Φ_i^{(p)}E[r_i]-α^{(p)})-α^{(p)})-μ^{(p)}((Σ_{iεI}Φ_i^{(p)})-1)

として

0=(dL/dΦ_i^{(p)})=(Σ_j Φ_j^{(p)}Cov[r_i,r_j])- λ^{(p)}E[r_i]-μ^{(p)}

0=(dL/dλ^{(p)})=Σ_j Φ_j^{(p)}E[r_j]-α^{(p)}

0=(dL/dμ^{(p)})=(Σ_{iεI}Φ_i^{(p)})-1

を満たす実数λ^{(p)}, μ^{(p)}が存在する.

Σ_pW^{(p)}(λ^{(p)}E[r_i]+μ^{(p)})=Σ_pΣ_jW^{(p)}Φ_j^{(p)}Cov[r_i,r_j]

=Σ_jV_j Cov[r_i,r_j]=Cov[V・r, r_i]

よって

L:=W^{(*)}・λ^{(*)},

M:=W^{(*)}・μ^{(*)},

とおくことで

L E[r_i]+M=Cov[V・r, r_i]

が成立.

共分散の線型性

Cov[aX+bY, Z]=aCov[X,Z]+bCov[Y,Z]

から,任意のψεΔに対し,

L E[ψ・r]+M=Cov[V・r, ψ・r]

が成り立ち,定理1が証明された.

ーーーー定理1の証明終りーーーー

 

(注1)

相関係数Corr[X,Y]が-1以上1以下であることの証明は簡単。コーシーシュワルツの定理は2次元版を高校で習う。以下のサイト参照。

 

 

・些細なことでも間違いや誤植があれば指摘してくだされば幸いです.

 

続き

 

CAPMの意味と解説 | 持論変えても反省しますが謝罪しません (ameblo.jp)

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(過去記事1)