証券会社が資産運用と称して株式投資を勧める時によく使うのが、
ドルコスト平均法
と
複利の効果
だ。
ドルコスト平均法の嘘は(過去記事1)などで書いた。
今回は複利の効果の嘘を書く。あまり世間では言われていない事と思う。特に初心者の目につくところでは。
今回は複利効果の嘘について二回にわたって書く1回目である。1回目で計算の議論をして2回目でちゃぶ台がえしをする。1回目を読まなくても2回目は読める。
複利の効果で儲かる話をよく聞くが、実際にはその複利効果は信託報酬と株価変動と税金により激減され、簡単な理論計算より極端に悪くなる。それどころか信託報酬は損した場合でも課され、複利の効果が味方ではなく敵として襲い掛かり資産を減らす、
という話である。
(過去記事2)で信託報酬料を計算してみた.
そこでは,一株X円がY円(Y>X)にn年かけて上がったとき,
報酬手数料を年e*100%だったとすれば,
初年度 (1-e)X
二年目 ((1-e)^2a)X
3年目 (1-e)^3a^2X
...
(n-1)年目 (1-e)^n a^(n-1) X
となる.
つまり税引き前の手取りは
((1-e)^n a^n)*X=(1-e)^n Y (*2)
円になる.
税引き前の手取りは、最終的な株価Yにダイレクトに指数関数
(1-e)^n
がかかってくるのだ。恐ろしい。
よって,税金20.315%引かれると,手取りは
X+
(((1-e)a)^n-1)*(1-0.20315)*X
円であるから,
資産が何倍になったかと言うと,
1+
((1-e)^n a^n-1)*(1-0.20315)
=
((1-e)a)^n*(1-0.20315)+0.20315 (*2.5)
(*1)では,信託報酬はenに比例するとした.つまり,年数に比例(年数の線形関数)するとした.
しかしより正確な(*2)では,
年数の指数関数になる.
この違いは大きい.
e=0.01の時にa=1.01では,(1-e)a=0.9999<1となり急激に減少する.
よくある宣伝で,かのアルバートアインシュタインが複利は人類最大の発明と語ったという説(真偽は怪しい)を持ち出して,投資をしようと呼びかける.
しかし,aが1/(1-e)より大きいときは,複利は味方になるが,
1/(1-e)より小さいときは,複利は敵になる.
指数関数的増大は,急拡大だが,
指数関数的減少は,急減少なのだ.
複利は諸刃の剣と言える.
投資を始めたことで,複利が敵に回り,資産が急減少することもままあるのだ.
つまりは,急拡大か急減少かのギャンブルになる.
しかも,上では,毎年,定数倍(a倍)していくと仮定したが,
実際には,aは定数でなく,日々変動する.
a/(1-e)は平均として1を超えればよいというわけではないのだ.
たとえば,a/(1-e)=0.99, 1.01なら平均は1だが,
0.99*1.01<1
だから減ってしまう.
よく,株式運用では年平均3%を目指せとはよく言う.(目指せも何も一個人投資家の意思なんか市場に反映しないのだが.実際日経平均直近30年で年2.3%)
信託報酬が0.5%として,
(1-0.005)1.03=1.02485
(1.025)^15=1.448...
だから15年で1.45倍にもなる(税金ぬかすともっと減る).
と煽る.
しかし,2.5%は年平均だ.仮に1年は2.5%,もう7年は2.5+100b%,
もう7年は2.5-100b%だとしよう.(これでも平均2.5%)
(1+0.025)(1+0.025+b)^7(1+0.025-b)^7 (*3)
はb=0のとき,上の1.448..に等しく,0以外のすべての値で,それより小さくなる.
b>0.232694
の時,(*3)は1より小さくなり,損をする.
上のサイトによれば,
日経平均株価直近30年の変動の標準偏差(リスク)は19%らしい.
一年で何倍になるかという話で1標準偏差が19%ということである.
正規分布を仮定すれば,平均リターン2.3%から前後19%以内に収まるのは68%ということになる.
(注1)上では,複利効果の嘘として,
”年率リターンの算術平均が3%なら,n年では平均
(1.03)^n
倍に資産が増える”
ということをあげた.
しかし,これは倫理的には嘘でも数学的には嘘とは言い切れないのだ.そこがいやらしいところだ.
例えば,aを算術平均1+m,標準偏差bの確率変数であるとする.
簡単に,確率50%でa=1+m+b, もう50%でa=1+m-bをとると仮定しよう.
すると,aをn回試行して,a_1, ..., a_nになったとし,E[..]で算術平均を表すことにすると,a_1,...,a_nが独立なら
E[a_1....a_n]=E[a_1]...E[a_n]=E[a]^n=(1+m)^n
になってしまうのだ.m=0.03なら,上の赤字文と同じ1.03^nになる.標準偏差bの値は関係ないのだ.
しかし,これをそのまま投資家に告げるのは悪意がある.確かに平均として(期待値として)は(1+m)^nとなるとしても,それは,(1+m+b)^nなど極端なケースが平均を釣り上げているからだ.実際にはn->無限大のとき,
99.9%以上の確率で,a=1+m+bとなるのは0.499n回以上0.501n回以下だ.
だから,ほとんどの場合において,
(1+m)^n
よりも
本文で示唆した
(1+m+b)^(n/2)(1+m-b)^(n/2)=((1+m)^2-b^2)^(n/2)
の方がより現実的であるのだ.b=0の時両者は一致し,それ以外では後者の方が小さい.
m=0.03,b=0.19ならば,
1.03^n
よりも,
(1.03^2-0.19^2)^(n/2)=1.01232^n
の方が実態に近い.1.2%の利益を3%と言うことでセールスが成功するわけである.
この手の意味において,証券会社はプロであり専門家である.株を購入することで儲けるプロではなく,株の売り買い手数料で儲けるプロなわけである.素人投資家をまるめこむ上では熟練のプロといえる.
(注1)終わり。
この記事の補足
続き
(過去記事1)
(過去記事2)