続き。

仕事とか労働には二面性がある。

まず、純粋にタスクとしての仕事。

普通はこっちの意味で使われる。
人の役に立つための雑用だ。
これはテクノロジーの進化によって軽減される。
才能と経験に恵まれた熟練職人だけに高給払ってやっと出来る世界から、
誰でも未経験のバイトに安い給与でやってもらえる世界へ
そしてその先には
安いロボットで自動化できる世界へ。

 これは好ましい進歩だ。それによって消費者は恩恵を受けられる。
 昔は川まで水汲みに毎日重労働しなきゃいけなかったのが、蛇口をひねれば水が出るようになった。
 荷物を荷車で運ぶ時、坂道ごとに縄張りを持つ集団がいて、金を払って上り坂を押してもらってた。
 手紙を送る時、飛脚に金払って頼んでたのが、今やメールで無人で送れる。
 駅の切符は窓口で人から買い、改札で切符きり名人に切ってもらってたのが、今や自動改札で支払いも入退場確認も簡単。

 便利になり熟練職人は要らなくなってきた。

 仕事のもう一つの意味は、
社会カーストのランクづけ
だ。
 これは仕事の裏の意味だ。
戦国時代なら戦争で功績を成した人がランク上位だし、
江戸時代の平和な時なら、その子孫たちがランク上位だ。
基本的に有事でない時は、生まれ育ちでランクが決まっていた。身分制度だ。これはある意味、争いを避けるという内向きの政治だ。
ところが、天下泰平の江戸時代、日本でも平賀源内など発明はあったが、特許も著作権もなく、実用には結びつく仕組みなく、英国では産業革命が起き、特許やアカデミーで加速され、あっという間に田舎国から世界に植民地を広げる大国にのしあがった。そして彼らが黒船で開国要求し、あわよくば植民地化されるところだった。

 そこで危機感を感じたのは、江戸時代の上層部ではない。その下層出身者だった。江戸城開城したのは勝海舟と西郷隆盛だが、勝海舟の父は生涯士官先が無い刀の目利きに過ぎなかったし、西郷隆盛も豆腐も高くて買えない貧乏な下士出身で、上士には虐められていた。
 そこで欧米の機運に倣って、生まれながらの身分制度を廃止し、家禄も辞め、個人の技量で職を決める制度にした。内政に気を使うより、外交的に強い国を目指さないと植民地化される危険があった。
なにしろ幕末で活躍した人たちが身分制度の圧をかいくぐり実力で這い上がってきたコンプレックスがあった。明治維新で功績があった人物を新政府で重要なポストにつけるべき、という意見もあったが、
明治維新の功績は、賞や年金や名誉として評価すべきであって、新政府の重要なポストには、過去でなく将来の功績のための能力で決めるべきと突っぱねた。

 そう。生まれながらの血筋が社会的ランクとして軽視される一方で、職業によって社会的ランクが決まるようになった。

 職業は単に、社会貢献をするとか、生活費を稼ぐという以外に、自分の社会的ステータスを高める手段になっている。

 特に思春期から結婚適齢期の男子に、この傾向は強い。
 社会的ステータスの高い職に就くことは、よい望む相手との結婚の可能性を高めることにつながった。

 もちろん仕事以外に部活動や趣味で社会的ステータスを勝ち取る方法もある。ただオリンピックでメダル取ったとか甲子園で野球したとかよっぽどでないとたいしたステータスにはならない。

 将棋で言えば、昔は羽生善治は
自分の使命は、美しい棋譜を残すこと
とよく言っていた。しかし今はもう言わなくなった。最善手を繰り出す美しい棋譜なら、人間より機械の方が完成度がずっと高いからだ。人間の棋士なんて最後一分将棋になれば、悪手の応酬だ。トン死や反則で決まることもある。
 将棋のよい棋譜そのものを生産するというタスクの目的から、棋士という人間ドラマを観察するドキュメンタリーに方向性が変わった。若手が台頭してきたり、ロートルが踏みとどまってたり、オヤツ何選んでるのか見て、人間ドラマを楽しむ形になった。
 将棋より前に、野球はじめスポーツなんてみんなそんなものだ。
 タスクでなくて、仕事を通じてカースト順位が変わる人間模様に意味がある。

 仕事の目的に、
タスクこなして生活費稼ぐ
というのと
社会的ステータス高める
という異なる二つが混在し、
それを分けないことが混乱の元になる。

だが、分けるのは簡単では無い。
例えば、銀行業や証券業、これは社会には役に立っていない。銀行員だと言っても、社会貢献を、看護師や介護士や教員以上にやってるとは思われない。
もし給与や労働時間など労働条件が全く同じなら、銀行員になりたがる人などいなくなるだろう。社会貢献して人に感謝されることは報酬だからだ。
だからこそブルシットジョブは通常よりむしろ給与が高いことが多い。それで贅沢な暮らしをすることで社会的ステータスを高めるわけだ。支払い能力が高いことは見かけ上の社会的ステータスを高める。
 社会的貢献度の高いリアルジョブほど、労働条件が悪くなっていく傾向がある。皮肉なことに。

続く。