ニートの自伝・2 | シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

リレー小説したり、らりぴーの自己満足だったり、シラケムードの生活に喝を入れるか泥沼に陥るかは、あなた次第。

俺、笑助。いわゆるニート、38歳。


第1回目では、俺のこれからやろうとしていること、

そして、その途中までを時系列順に書き、次回へ続くとした。

今日は第2回目ということもあり、通常、続きを書くべきなんだろうが、

少し、補足をしておきたい。俺のいつもの悪い癖だ。



現在、俺は、仕事もせず、これといった趣味もなく、

暇なのでとりあえず、ネットサーフィンなどをして1日を過ごしている。

日々の生活資金は、70近くになる父親の、早朝からの駐車場管理の

アルバイトと年金で、賄われている。

母親も、60半ばで健在だ。俺の分の食事も3食、毎日作ってくれている。

ただ、思春期の頃から、一度も食卓を共にしたことはない。

もちろん、俺がリビングへ足を踏み入れていないだけなのだが。

毎日、同じ時間、同じ場所に、俺の食事を届けてくれて、

同じ場所に食べ終わった食器を置いておくと、いつの間にか片づけてくれている。

そんな生活が25年間も続くと、当たり前、いや、日常の一部と化してくる。


はっきり言ってしまうと、俺は、今回、自伝を書く気になるまで、

両親に感謝などしたことはなかった。

「してくれている。」などと、先ほどからさも、ありがたみを感じているような

書き方をしているが、ほんの数週間前まで、「平常通り、やっている。」程度の認識だった。

俺に自伝を書かせるに至ったきっかけは、今後、順を追って書いていきたいと思うが、

俺の現状は、このような、社会の底辺以下の状態であることを知っておいてもらいたい。



さて、中学生になった俺は、当然、今まで通り、まー君との

虫取りやカードゲーム、テレビゲーム、ガチャポン、ガンダム合体遊びなどを

しながら、平和な中学生活を送る気でいた。


まー君とクラスは別々だったが、小学校の時も同じクラスになったことはなく、

お互い、新しい環境にすぐ馴染めるタイプではなかったので、

何度かクラス替えはあったが、それでもまー君以上に気の合う友人はできなかった。

もしかしたら、俺だけがそう思っていて、まー君としては無理矢理、俺に付き合ってくれて

いた可能性もあるが、当時から思い込みの激しい性格だったため、

当然、まー君にも、俺以外に気の合う友人がいるなんて、微塵も思っていなかった。



入学式のちょうど1週間後だった。今でも鮮明に思い出せる。

まだ花びらが散り切れていない桜の木の下で、俺はまー君を待っていた。

待ち合わせ場所として、何となく分かりやすい場所、ということで決めたのだが、今思えば、

花びらが散って緑の葉がしげり始めると、もしかしたら目立たないのかもしれなかった。


授業が終わり、ゆっくり教室を出て、だいたい15時半には落ち合えることを

この1週間で分かっていた俺は、40分を過ぎても出てこないまー君に、苛立ちを覚えた。

どんくささは天下一品で、2度も忘れ物をして、教室に取りに帰ったかと思ったら、

最初に取りに行った忘れ物をまた置いてくる、といったこともよく目の当たりにしていた。


「いつまで待たせる気だよ。」

小声でつぶやきながら、まー君の教室へ足を向けた。

その日は早めに帰って、FFⅤのパーティの職業の組み合わせについて、

お互いの分析結果を報告し合う日だったので、楽しみにしていたのもあり、

いつもなら少々待とうが気にもしないところを、教室まで迎えに行ったことが間違いだった。



まー君が、女の子と2人で話し込んでいた。

確か、小学校も同じだった、なんとか原、とかいう名前の子だ。

それまで、まー君が、俺以外の同級生と話す場面を見たことがなかった。

ましてや女の子と対等に、いや、むしろ主導権を持って話している、

そんな様子を、テレビの向こうの映像かのように錯覚しながら、扉の外で突っ立っていた。


急に、女の子が泣き出した。まー君が泣かせたわけではなさそうだった。

小学校2年生の時、まー君が、茂みでお尻を拭きながら泣いていたことを思い出した。

吹き出しそうになるのをこらえ、回想から頭を戻し、もう一度、目を2人に向け直すと、なんと、

まー君が、女の子の頭に手を置き、ぽんぽんと、なぐさめてあげている。

「!!!!」


衝撃だった。大人の男の手に見えた。まー君の手だ。

昨日、一緒にカードゲームをして遊んでいた時、冗談で

俺の欲しいカードをまー君のカードホルダーから抜き取って天高く持ち上げると、

まー君は小さい体を跳ねさせながら、一生懸命、女の子のような白い手を伸ばしていた。

その手が、今、人を癒すべく、なぐさめるべく、異性の頭に伸びている。



思わず逃げ出していた。

もしかしたら、世間一般では大したことではないのかもしれない。

ただ、俺は、38歳になった今でも、目の前で泣く女の子に手を伸ばすことはできないだろう。

そもそも、俺の前で悔しさや悲しさなどをあらわにするような関係の人間は、周りにほとんどいない。

それは、俺の器の問題でもあり、人間関係の構築がうまくできていないからだ。


中学生になったばかりの俺にとって、いつまでも幼く、弟のような存在だったまー君が、

俺の知らないところで大人になっていた。

本当なら親友として喜ばしいことであるはずが、俺こそ幼く、下を見ることによってしか、

生きていけないような人間だったのだろう。

とにかく、この「頭ぽんぽん事件」は、卑猥な響きを持って、俺を執拗に固い殻へと閉じ込め続けた。


まー君との付き合いもだんだんと薄れるようになり、いつしか俺は、学校へ行かなくなった。