山戸ライトな時もあるいつもカピバラです。
行きたくてなかなか行けなかった熱海。二年前の春に高崎で『あの娘が海辺で踊ってる』を観て以来、ずっと企んでは頓挫してきたロケ地巡り。
今年に入り、7月、8月と時は過ぎ、さてそろそろと段取りを始めると、耳を疑うような情報が。
あの娘の再上映?!
なんと、夏期限定の土肥劇場というシアターでちょうど8月末日に上映が予定されているとのこと。しかも静岡県。
行かない理由が見つからねぇ。

めっちゃ遠いっす。
新幹線の三島駅から伊豆箱根鉄道駿豆線に揺られ40分くらい。終点修善寺から東海バスで約1時間。このバスが片道¥1,500-くらいするが、往復で買うと少し安くなる。伊豆箱根鉄道は片道¥510-です。



土肥にTOYを当てるこのけれん味、なんかヤバそう。
この地が舞台の映画『海のふた』の監督である豊島圭介氏が、主人公の実家という設定でこの建物を整備し、地元の協力を得て夏季限定の映画館として公開したというのが背景らしい。
2年前からやってるっつーこちらの劇場。見た目はまんま民家っつー感じだけど、お昼には八畳の和室でランチを提供、上映時にはスクリーンのある部屋と繋げて映画館にする、らしいっす。(ショウ君風)
客席は、旅館にあるような座椅子4列、後ろにパイプ椅子が1列というあまりに素朴なシートです。
大人1枚1000円で、ワンドリンクがついてくるという嬉しいサービス。
そして何と貸し切り。
いい試みかとは思うんだけど、いくらなんでも田舎すぎる。地元の人が観に来ているかといえばそうでもなく、なんか勿体ない印象でした。
あの娘~を久々に観ましたが、何と言うか、一番胸に迫りました。伊豆の潮風が香る街でこの映画を観る機会もなかなかないでしょう。
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今回発見したことがいくつかあって、その1つはパピコの謎。
菅原が勧めても「何だこれまっじーな」と暴言を吐く舞子は、一人でいるときはパピコを食べて「美味しいな」と呟く。パピコを食べながら廊下を歩き、菅原と合流すると食べかけのそれをその場に棄てていく。
何を言っても怒らない菅原に舞子が暴言を吐く共依存的な描写はこれに留まらないが、誰に見られるでもない高台の上で美味しいパピコを、大好きな菅原の前では邪険に扱ってみせる理由がわからなかった。
これ、結局パピコは菅原の雛形であって、その間に圧倒的越えられない壁の存在することを表してるんですね。
菅原がいない間は菅原の象徴たるパピコがその代わりとなり、本物の菅原がいればパピコはたちまち菅原の代わりという立原から追われて転落する。
美味しい不味いは舞子の感じ方の変化以外の何でもなかったのだ。
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それでは熱海に行きましょうか。
土肥劇場から最寄りのバス停大藪へは徒歩10秒くらいですが、バスは1時間に1本。大鶴義丹が営むホテルカリフォルニアがある(細かすぎて伝わらない)修善寺から三島、三島から熱海と電車を乗り継ぎ、熱海に着いたのは17時で陽は傾きつつあり。
とりあえずシーン順に。もちろんネタバレ含みますよ~
①ジョナサン熱海サンビーチ店

"気持ち悪っ・・・。 会いたい会いたいって、ヤりたいヤりたいってことだから。会いたくて会いたくて震えるって、ヤりたくてヤりたくて禁断症状って意味だから。"
冒頭でいきなりKY極まりない舞子がクラスメートを泣かす。
②サンビーチ

"ねぇ菅原、あいつらホンット馬鹿なんだよ。だから田舎って嫌い。"
舞子と菅原が裸足で海辺を歩く。
③商店街

長舟~酒場洋子~絹専門店~旬彩柾家の並びです。
本屋さんはもっと南西の方にそれらしいお店を見つけましたが、確証は得られませんでした残念。
④坂

カスタマイズしておくれよ~ ねえカスタマイズしておくれよ~
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⑤高台の空き地


"これ、美味しいな。"
フェンスが巡らされ駐車場として利用されています。
舞子の住むマンションの特定も試みましたが、夜景しかヒントがないため断念。土地勘がないとムリっぽい。
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⑥ヨットハーバー


"AKBは口パクとか言ってる奴はヌルいよね。聴衆に生歌を聴かせることなくステージに突っ立ってるだけで成立するその価値を崇める方が先でしょ?"
"舞子…こんなに可愛いのに…"
ここに三味線兄弟が通りすがりますが、実は彼らが歩いてくる方向には何もない。海です。彼らの向かう先にも何もない。海です。このへんが実にうまく編集されています。
⑦貫一お宮像

熱海の観光スポットとして有名な貫一お宮の銅像。いつも観光客がいます。
他の男に乗り換えたお宮を貫一が蹴り飛ばし、決別するシーンであります。っていうか、その筋がどことなく「あの娘」に似ているような・・・?
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⑧歩道橋


"あなたも…踊り子さん?"
"私は立ちっ子です。死んでも踊りません。"
歩道橋でのやりとりの後、笹谷副部長が舞子にお説教をするのは高台の空き地。
“ぜんぜんやる気なんてないでしょ。“
距離を縮める菅原と古野部長に嫌悪感を顕にしてジョナサンから飛び出した舞子、海岸で三味線兄弟に鉢合わせ。陽の具合からすると5時半くらいに浜に下りるとその雰囲気が味わえます。
”あんたのせいで菅原が孕んじゃったじゃない。でもまだ流産できるから。私はそれを頑張るの。”
“海だけが私の友達で、菅原は私の恋人なの。“
“海人 うみんちゅ かつレズってことですか…“
“比喩も通じないの?これだから田舎の男って嫌い。“
“自分だって田舎じゃん。“
その比喩は東京でも通じなさそうな気がするぞ?! おとぎ話みたいの「田舎の即物的な男」という表現のがわかる気がする。
”私は海に還りたいの。”
”それ何の比喩?”
カメラ越しに気持ちをぶつけあう舞子と菅原。
時を同じくして、恋愛と部活の両立について語る古野部長と笹谷副部長。
“でも本当に好きになったら、顔より雰囲気じゃない?あの柔らかい雰囲気がさぁ…“
“お前も相当柔らかいけど。“
三味線兄弟が話し合っていた場所は分からなかったので、課題とします。たぶんジョナサン近くの遊歩道からヨットハーバーを眺めている図だと思うのですが…
““あっそう、好きにすれば?““
⑨龍宮閣脇の細い階段

舞子が待ち伏せするのは、菅原の住むマンション(アデニウム熱海濱ノ離宮)に続く道。
撮影当時は工事中だったのか上野きくや側に壁があったが、現在はない。

”魚が美味しくて何になるのよ。静かって何もないってことじゃない。”

”検索しても同姓同名の誰かが並ぶ中に埋もれるのが利口だとでも言いたいわけ?”
通る人も少ないらしくとても静かな雰囲気。アデニウムの立体駐車場の脇には、舞子みたいな色白でスレンダーな猫が誰かを待ち伏せしてました。
"あなたはお墓。これは御供物。南無阿弥陀仏。"
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⑩サンビーチ歩道



キャリーバッグを転がす舞子の目に、田舎の情報網により出発を察知し待ち構えて踊る菅原の姿が映る。菅原そして三味線兄弟からの餞別は、ここから送られたものと思われます。
ちなみに高校が丘の上にあるとすれば、駅に向かうのにこの道を通る必要は全く無いため、舞子は唯一の友達である海に別れを告げたかったのかもしれない。
笹谷副部長が居てもたってもいられず舞子を追いかけるシーン、映画を観るとスタスタ歩く舞子はさぞ遠くまで行ってしまったのではと思われるが、ここから駅までは階段信号坂道の連続で、キャリーバッグを持っての移動はかなり時間がかかる。身軽な高校生男子が走ればかなり有利と思われます。これは気付きたくなかった…
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⑪JR熱海駅


"まだ付き合ってるの?"
"はぁっ?!"
”でも、それでいいの。菅原はちゃんと消費されるべきなの。女であることを持て余して擦り減らされる商品志望とは訳が違うの。それがあの人の恋なのよ。”
足湯につかり言葉を交わす笹谷副部長と舞子のシーン。
ここの足湯(家康の湯)は撮影当時と少し周りの雰囲気が違うものの、現在も楽しむことができます。ただし16時までなので注意。
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以上、①~⑪を地図にプロットするとこうなります。

駅から概ね1km×500m圏内に収まっていることが分かります。どことなく踊り子の姿に見えなくもないような・・・(強引)

熱海は坂の街なのと、それぞれの場所も案内などがあるわけではないため土地勘がない人間には見つけにくく、体力的にも気持ち的にも無理なく回るとすれば1時間半はかかると思います。それも回るだけ。
映画の流れに沿って回ろうとするとかなりきついです。1日の出来事じゃないから時間も合わないし。
『あの娘~』はだいたい盛夏の15時前後の陽光に映える場面が多い気がしますので、例えば昼過ぎ2時前後からぐるっと回って、ジョナサンでパンケーキを食べた後、海水浴・温泉・カラオケなんかで時間を潰して、6時過ぎてから夜のジョナサンと細い階段だけ回るようなプランが考えられます。
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山戸監督は2014年12月8日のテアトル新宿における『おとぎ話みたい』上映後トークイベント(中森氏,豊崎氏との鼎談)で「熱海が容器に見えた」「廃墟の渇きと海辺の潤いがあった」と言っていたが、確かにこの街は容器に思えてくる。
元々の地形が海岸に沿って急斜面が続く形となっており、重力に従い坂の下への向かうと、海岸の前の道に誘導される。熱海の主要なレクリエーション施設たるサンビーチや公園はここにあり、ホテルもレストランもコンビニもガソリンスタンドも交番も全て道沿いにある。ここから駅に向かうのはかなり骨だし、しかも、斜面を覆うほどに増殖したビル群がそそり立ち、壁となって行く手を塞ぐのです。(比喩ではなく本当にサンビーチの正面には坂の上にむかう道がない)
高台の空き地ではないですが、熱海もかつてほど宿泊業や別荘が栄えているわけではないらしく、ホテルの跡地が散見されます。もちろん桁違いのネームバリューがある温泉街であることは疑いようもないですが、それでも舞子が「年寄りの観光客しか来ない」とバッサリ斬って捨てるのもあながち言いすぎでもないのかもしれない。
海の潤いというのは不思議なもので、海洋生態学的な視点においては人工的かつ有機物(漂着物)を意図的に除去し続けている管理された不自然な砂浜というのは一目で分かりましたが、都市工学的には間違いなく人工的な施設とは異なるImdominousなパーツであり、ビル群とは対比される存在でしょう。この対比の真ん中に国道135号と緑地帯があって、ここが妙なバランスの上に成立している空間となっています。
この閉じられた空間で、いいじゃん不自由なく暮らせるじゃんという気持ちもわかる。そういう意味でこの映画はこの土地に宛書されたもので、その言葉にできない部分は、実際に熱海を訪れてみて初めて実感できました。
テーマ曲「あの娘が海辺で踊ってる」には「海辺の国に恋人を置いて」というフレーズがあるが、そう、この容器は街ではなく国。独立した存在なのである。