鯨の絵巻 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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吉村さん得意の動物がネタの短編を集めたもの。著名作が多い吉村さんの小説の中でも地味目な作品ばかりになってしまっているようで、なかなか中古市場では見かけない。かくいう俺も探して入手したものではなく、路傍の‘さしあげます’の本の山の中に見つけて、しめしめともらってきたもの。

 

動物そのものが主人公になっている作品も読んだことがあったのだが、本著に収められている5編はいずれも人間が主人公。表題作も明治時代の和歌山の少年が鯨漁師として大成してゆく一代記だし、他では養鯉業者、ハブ採り、カエル採りなどの人間模様を描く。主人公はいずれも男。その道を選んだ、というよりその道にはまるべくしてはまった男たちの求道者っぷりには魅せられる。

 

表題作の時代の捕鯨は、銛を持った男と巨大な鯨の一対一の対決から始まる。飛び込んだ主人公がまず巨体のどこをどう刺して、どう切り裂いて、誰がどう合図して何艘もの舟の大勢がどう動くか、浜まで曳いてきたら村の衆がどうして、どう処理してどうカネに変えるか、という日本古来の捕鯨方法が興味深い。しかし、もっとも印象に残ったのは、養鯉が題材の‘紫色幻影’。ああ、その幕切れよ!

 

平成2年 (原著は昭和53年刊)

新潮文庫

吉村昭 著

 

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