この人の本を読むのは初めて。どういう経緯で小説家が朝日新聞特派員としてベトナムに送られたのかは知らないが、いちおうこの経験が後の彼に大きな影響を与えたということになっている。はてさて、どんな経験をしどんな感想を持ったのか。
どうも俺がいつも読んでいる‘戦記’というやつとは毛色が違う。作中で戦闘部隊に同行するのは一度だけ、あとは街中でデモを取材したりいくつかのグループの指導者に話を聞いたり、基本的に街中のホテル暮らしで、ほとんど銃弾の下をくぐっていない。週刊朝日の連載を帰国後に書き直したものらしいが、しばらくはベトコンに撃ち殺される夢にうなされ続けたという。あまり死線をくぐった記述が無いのに、‘全土が最前線’といわれた当事のベトナムの国情はやっぱり現地にいてこそ知れるもののようだ。
ベトナム戦争初期の思考回路といおうか、中にいた人たちが何を考えどう行動していたか、ということがメインで、その点では意義ある本だと思うが、俺はあまり面白く読めなかった。それに、この文庫本もそうだが、後年の新装版の表紙だとベトナムよりも開高が主人公になってしまっている。発刊当事とは作品としての位置づけが変わってしまっているように思う。それは開高も喜ばないことだろう。
平成2年 (原著は昭和40年)
朝日文芸文庫
開高健 著
購入価格 : \110