生出さんの著作は今までに何冊も紹介してきた。
(★)・特攻長官 大西瀧次郎 など。
そのどれにも共通しているのが、痛烈な山本五十六批判だ。いっさいブレはない。今回もじつにわかりやすいタイトルの書だが、もちろんブレないだろう。
昭和の海軍を好きな俺が読む書には、東郷さんは悪役として描かれることが多い。隠居してなお帝國海軍に大きな影響力を及ぼし、無為に若手将校を先鋭化させることが多かった。しかし当然ながら、その功績はとてつもなく大きい。本書では連合艦隊を率いる司令長官としての2人をいちいち対比させる。
並べられるとホーッと唸らざるをえないのだが、‘旅順港口戦対ハワイ・マレー沖開戦’‘マカロフ長官謀殺対珊瑚海海戦’‘戦艦「初瀬」「八島」沈没対ミッドウェー海戦’などなど、日露戦争と太平洋戦争での重要なできごとは不思議と時機、意義などがみごとに対照的。そこにいつもの生出さんらしい、史料をたどっての正確な行動、発言が再現される。細かい態度も詳述される。どれも東郷の大物っぷりと山本の凡将っぷりがきわだつ。そしてこれも生出さんの持論である、‘航空機主兵論’の愚(日米戦に関しては)を説く。それはもちろん山本の戦略であった。書かれていることには全て納得せざるを得ない。今さらながら、帝國海軍についての見方をガラッと変えられてしまう衝撃の書だ。
平成21年 (原著は昭和61年)
新人物文庫
生出寿 著
購入価格 : \108