昭和天皇に背いた伏見宮元帥 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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海軍の指導者、指揮官などについての著作の多い生出氏が、宮様元帥をついに糾弾する!という想像が膨らむ刺激的な書名。伏見宮の名を書名に冠した著作物は多くないような気がしたが、はたして巻末に載っている約80冊におよぶ参考文献一覧にもずばり‘伏見宮’という文字はついぞ見えない。伏見宮を主人公にした書物は無かったのだ。

 

小綿恭一さんという方による巻末の解説のタイトルは‘生出寿、タブーに挑戦する’となっている。じつは生出さんはこの時点ですでに海軍タブーを犯している。それは‘凡将山本五十六’を出版し、世紀の名将と謳われる元帥をこき下ろしていたのだ。当然、海軍業界?からは非難ごうごうだが生出さんは意に介さず、以降も‘(★)本当のことが知りたいんだよ’という言葉のとおり多くの、ときには刺激的な著作を残した。その中でも本著は、書名の衝撃度は群を抜く。表紙にはごていねいに菊の御紋まで冠されている。

 

だがしかし、じっさいの内容は伏見宮がただ一人の主人公というわけではなく、永野、嶋田も含めて表紙の三人が等しく糾弾されている。三人が総長を勤めた海軍軍令部をはじめとして、海軍最高指導部層がぐずぐずと戦争に突き進んでゆくさまを描くドキュメンタリー作品といえる。日露戦争では戦闘で負傷、息子王子も戦死するなど伏見宮はお飾りの宮様軍人ではなく、かなり‘潮気’に吹かれている海軍軍人。しかしやはり、指導者としては大きな十字架を背負ったといわざるを得ない。邸宅も空襲で焼かれ、失意のうち戦後1年で亡くなった。

 

平成3年 (原著は‘軍令部総長の失敗’の書名で昭和62年)

徳間文庫

生出寿 著

 

購入価格 : \300