南の島に雪が降る | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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この本、というか映画というか、このはなしについてはぼんやりと知っていた。以前紹介したこの本にもチラッと写真がでていた加東さんについては名優だといわれていることくらいしか知らない。この本は有名なわりには中古本市場で目にする機会が少ないこともあり、中古レコード屋で(!)見つけてすぐに購入決定。

 

だいたい加東さんは以前に軍歴があったとはいえ昭和18年に再召集された時分でじゅうぶん有名な俳優だったからか、配属されたのも兵站病院で衛生伍長というラク?な配置。しかし送られた先はニューギニア西部のマノクワリ。米軍も見捨てた果ての地であったので戦病死こそ多かったものの、散発的な空襲以外は戦闘シーンはほぼ無し。食いものが無いうえ戦闘も訓練も無しで人心が荒れ、口論や暴力沙汰が頻発、不思議と理解者が多く‘演芸をやれ’ということになった。そして正式に演芸分隊が組織され、7千人もいれば大工から衣装、カツラ、脚本書きまで経験者が集まった。照明やマイクまで備えた本格的な舞台が建設された。この本のタイトルは、雪の演出シーンで北国出身の部隊がみな滂沱の涙を流したことをいう。結局終戦後しばらく、イギリス軍、オランダ軍なども観客に加えつつ、復員の寸前まで舞台は続けられたのだった。

 

この本の面白いところは、演芸分隊に集まってきた多士済々の面々だ。お坊さんとか地方の劇団員、有名俳優を騙るニセモノ野郎などなど、オーディションのもようまでじつにマジメに描写されている。人気が沸騰した女形役者をめぐる騒動はマジか(@_@)。加東さんの文章はムダなくきれいで当時の空気がビンビンと伝わってきた。ご本人はあとがきで自らを文才乏しいニワカ文士、と語るが、実姉である以前紹介したこの本の著者ともども、イキで品があると言わざるを得ない。

 

昭和58年 (原著は昭和36年)

旺文社文庫

加東大介 著

 

購入価格 : \108