ティータイムを終え、リックとクリスティーナの二人はモニカを見送りに出していた。
   「また来いよ」とだけ言い残し、旅館の奥へと消えてしまったクリスティーナだったが、その言葉を聞けただけで、リックとモニカは満足だった。特にリックは、あまり他人と打ち解ける事を苦手としている妹がこんなにも早くあんな言葉を口にするとは思ってもいなかったので、嬉しさのあまりその後ずっと笑みが絶えなかった。
  モニカの後ろ姿が見えなくなり、さて、片付けでも始めようかと思っていたところで、玄関先に再びクリスティーナが舞い戻って来た。
  先程と違うのは、彼女の右手には、ここへ来る時にはモニカが手にしていた袋がぶら下がっている事である。

「モニカさんの忘れ物だね…。流石にもう追いつかないかな…」

  モニカの消えていった方向を長く見つめながら、リックはどうしようかと考えた。その時、妹の口からはリックが思いもしていなかった言葉が発された。

「モニカは花屋だ。今すぐ必要な物でもないだろ?お兄様、手紙でも書いといてよ。あたしが届けに向かうから」

  あのクリスティーナが知り合ったばかりの彼の為に、自らが動くと言ったのだった。その珍しい発言に、思わず兄であるリックでさえも目を疑った。
  少しの間、返答が出来ずにいると

「何か問題でもある?」

と、目を細めて不満げに口を尖らせていた。
  その妹の表情に、思わず「ふふっ」と笑いを零すと、クリスティーナは今度は不思議そうに眉をひそめた。

「ううん、問題ないよ。それじゃあ、僕からモニカさんに手紙を出しておくから。そうだね…三日後の朝くらいにフレゥールに向かうといいよ」

  わかった、と背を向ける妹に、リックはふざけ半分で、続けてこう言った。

「ついでに、モニカさんとデートでもしておいで」
「はあああああ!?ばっかじゃねえの!?」

  リックのそのふざけた言動を間に受けたクリスティーナは勢いよく振り向くと、自分より幾らも高い兄の顔を見上げて大声を上げた。

「あたしとモニカはただの友達だよ!モニカの所に行くのも忘れ物を届けに行く為だけだから!仕事もあるし、届けたらすぐに帰ってくるに決まってるだろ!?」

  なんて事を言っていたけれど、リックは「うんうん、そうだね」と笑顔で聞き流していた。クリスティーナの言葉よりも、耳まで赤くした必死なその顔に、思わず、我が妹ながら可愛いなあ、と顔が綻んでしまった。

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  そんなリックの悪ふざけのせいで、まあ自業自得ではあるのだが、今夜の食卓には彼の苦手なタマネギが大量に盛られていた。