弟、船に乗っていた集団の長、そしてもうひとり、姉弟の世話係の男性、の4人で目的地に向い始めたが、長の方は少し歩いただけで早々と離脱した。
後を任された世話係に続いて進むが、小さな弟に歩調を合わせれば、どんどん時間が経っていく。
男は心得ていて、二人を無理させず、度々休憩を挟んでは道案内をした。
--何処へ向かっているのだろう・・・
男に訊きたくとも、必要な事しか喋ろうとしない寡黙さにその気は失せ、慧子の方としても、理由も分からず突然強いられた逃避行の先に、何が待っているのかを積極的に知りたいという勇気もなかった。
ひと気のない長い長い道のりは、やがて山道へと繋がる。
平坦な道に比べ、厳しい坂が続くため、弟はついに我慢の限界に達した。
暴発寸前の弟をなだめ、自分も不安な表情を浮かべないよう努めるが、心の内は自分が一番に泣きたい気分だった・・ただ、泣くほどの心の余裕もなかった、とにかく二人ともが無事で目的地に着くことが最優先だったから--
休憩を取る頻度が格段に増え、空腹も訴える弟を前に男は、急がないと日が暮れてしまうと返って急かすのだった。
最初の緩やかな旅が、迫りくる夕闇から逃れるための過酷な道行きに変わっていたーー
息が上がり、いつ終わりがくるとも知れぬ登り坂は、あと少ししたら、闇に包まれる時間帯になっている。
目的地など、もうどうでもいいと思い始めた頃、上方から下りてくる松明の明かりを目にした。
数本の明かりが自分たちの方へ近づいてくると、慧子は声を上げた。
前にいた弟が、ふっと浮いたのを見たからだった--松明を掲げてきた人物に抱き上げられたことを知ると、慧子は何故か理由もなく安堵した・・ずっと、これ等の見知らぬ男たちに警戒心を抱いていたにもかかわらず--
別の人物が、ふらつく彼女をしっかりと支えてくれた時、彼女は目的地に着いたことをはっきりと知らされるのだった・・


