漆黒の闇の中、上方から松明の灯りが下りてくる。
波音を聞きながら、怯える慧子--
船頭は傍で冷静に、怖がる必要がないことを説明する。
やがて、黒い塊から下りてきた黒装束の男に抱えられ、船へと引き上げられた。
船頭と別れ、黒い大きな船に乗った慧子は、そこですぐに弟と再会する--
船には、帯刀した男たちばかりが居たが、少数で、あくまでも二人に危害が及ばないよう警護するために乗っている旨説明され、姉弟が無事乗船したことで、彼らの役目は果たされたと、満足気だった。
逃避行が始まって以降、緊張と恐怖の連続だった慧子は、ここに来て初めて安堵し、涙にくれた。
その夜、二人は抱き合ったまま眠りに落ちた・・
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翌朝早く起こされた二人が、甲板に出て目にしたのは、見知らぬ土地だった。
陸に降り立つと、集団の長と思われる男が、しばらく歩かなければならないが、ここまで来れば、昨日までのように警戒する必要はない、休憩しながらでよいので、ゆっくり参りましょうと、笑顔を向ける。
慧子は、つられて笑顔になるほど、内心気を許してはいなかった。
弟の手をぎゅっと握り締め、生まれて初めて、自分がしっかりしないといけないと思った。
ーー弟を守ることができるのは、今、自分しかいないのだから・・・