漆黒の闇の中、船はゆっくりと進んでいた。
櫂がたてる水音だけを聞きながら、船底で息を潜める慧子--
しばらくすると、何かの物音に気付く--彼女にはそれが、なにか禍々しいもののように感じられ、全身を強張らせた。
船頭に、ぼろ布の下から出るよう促されても、緊張と恐怖で体が動かない。
業を煮やして布を引き上げ、少女をなだめる船頭--腕ずくで引き出すようなことはせず、辛抱強く説得する彼に折れ、恐る恐る顔を出し、物音の方向に目を向けてみる・・
そこには、深い夜空を背に、自分たちを飲み込んでしまうのではないかと思える、
大きな、黒い塊
が聳え立っていた--
慧子は声を失い、ここまで来たことを悔いた。
いったいこの
巨大な船
は、自分を何処へ連れていくつもりなのか・・・!