若き青年僧は、ほぼ毎日のように、 慧子の住まいを訪ねてくる。
家庭教師の役割として、彼女に文字を教え、同時に--経文を書き写させる
写経
をさせていた。
ただ写すだけでなく、お経の説明もしてくれる彼に、 慧子は好意を抱くようになり、ほのかな憧れの気持ちを抱くようになった。
そしてその憧れは、単純に思春期だからというものではなく、毎日彼が与える 宿題 を熱心にこなす彼女の頑張りを認め、誉めてくれる--たとえ間違いがあってもそれを諫めることはせず、できたことのみを誉めてくれるところに、嬉しさを感じたからだった。
--実の親とはどのようなものか知らない彼女にとって、彼は親のような存在であり、兄であり、そして恋人でもあったのかもしれない・・・
彼女が毎日、生き生きと楽しく暮らす理由とは、そんなことからだった--
が、そんな平穏の日々を、突如打ち砕く出来事が起こる。
--Kさんが夢で見た物語のように、慧子ひとりの意志ではどうにもならないものとなっていく・・・