その日は、あまりにも突然やってきた。
明け方の浅い眠りの中、その柔らかな夢をいやおうなしに引き裂く女官の声--
叫びにも近い口調で、身支度を急がせる。
取り返しのつかない何かが起こったのだと思わせる必死の形相に、どうしたのだ、何が起こったのだと聞いても、とにかく着替えを、としか言わない女官の態度に、事は秒単位で争われることなのだと、ようやく理解し始める・・・
住まいとの名残を惜しむ間も与えられず、出発しなければならない事態を悟った段階で、はっとした。
朝右は・・・!?
女官は、彼が慧子より早く住まいを後にしたこと、彼とは別の場所で合流する手筈であることを明かす。
よかった・・!
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住まいを出て乗せられたのは、男が手で引く手車のようなもの。
女官の乗るスペースはなく、付いてくることも叶わない--
慧子はひとりでそれに乗り、坂道を下りなければならないと告げられた。
--どこへ向かうのかも知らされず・・・
女官と別れを告げ、走り出す車--しかし、手車を引く男はかなり慌てていて、一刻を争うといった彼の危機感がひしひしと伝播し、彼女の鼓動も早くなる。
車は激しく揺れ、慧子は何度も転げ落ちそうになり、生きた心地もしない--
--もう限界、と思った頃、不意に視界が開けた。
目に飛び込んできたのは、朝陽にきらめく
大きな海・・