視えてきたのは、Sさんの前世の女性--仮の名を
シモーネ とする
の母の姿。
歳は21歳と若い--
黄金色に輝く長い髪を、頭の後ろで無造作に縛り、父親らしき
男性に笑顔を向けるその容姿は、シモーネに劣らず美しかった。
ピクニックにでも出かけたのだろうか、夫と二人、陽光の下、
柔らかな草が生い茂る土手に腰を下ろしている。
年下の夫は軍人--あどけなさの残る19歳。
彼が身に付けていたのは軍服だったが、前線で戦う兵士用ではなく、
工兵のための制服だった。
臨月をむかえた母は、喜びにあふれていた。
--が、年若い父の胸中は複雑だった。
ポーランドに出兵していた際、出会った彼女を身籠らせたことを
悔やんでいた・・
彼の両親は、この事実を知らない、そして知らせるつもりもなか
った。
何故なら、誰を嫁にするかを決めるのは、富裕層に属する彼の
両親であること、息子である自分ではないことを知っていたから。
彼女は、貧しい家庭に育った異国の娘--両親が認めるなど
あり得ないことだった--
若気の至りで、すでに彼女に対する愛は消えていたが、それを
態度や表情に表すことなく、優しい恋人像を演じた。
彼女も、彼への愛と、身籠った喜びに、ただただその優しさを
信じるのみ、本心に気づくことはなかった・・
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