ローラの自宅は、ケンタッキー(州)にあると教えられた。
『風と共に去りぬ』 に登場するような邸宅と、大きな農園を所有し、裕福な生活を送って
いる。
一代で財を築き上げた祖父は、家業を息子に任せ、政治家になっていた。
息子の嫁には、イギリス貴族の家系出身の女性を選ばせ、ローラとその弟が生まれる--
が、この貴族出身の母親は、子どもに対し、育児放棄に等しい接し方しかできない女性だった。
ローラがよく覚えている体験のひとつに、庭で弟がゴムまりを転がして遊んでいた時のこと。
--母は椅子に腰掛け、優雅に長パイプをくゆらせていた。
まりは弟の手から、彼女の足元目掛けて転がっていく--
長いドレスの裾元に軽くぶつかったまりを、弟は、母が投げ返してくれるものと思い、じっと
待っていた。
しかし母は、足元に一瞬目を遣ると、眉ひとつ動かさず、再びパイプを咥えただけだった・・
声をかけられるでもなく、無視された形の弟は、当惑したような表情を浮かべたまま固まって
いる--
ローラは無言で、自ら取りに行ったまりを弟の手に渡した・・・
母のこの冷淡さは、しかし、父のそれとは大きく違っていた。
偉大な父の重圧に、長年晒され続けたこの息子は、どこか気の弱い、自分に対して自信の
持てない性格の大人になっていた。
それでも、富豪の子息らしくない、堂々としていない父親は、子供に対して、母とは対照的な
無償の愛 を注いだ。
そのため、まだ深く考えることのできない弟は、父によくなついている。
しかし家業に加え、祖父の政治活動に関わる手伝いで多忙な父は、ほとんど自宅に居な
かった。
ローラは・・・父の愛は拠り所であったにしても、冷淡な母を憎む一方、愛に餓えていた。
ーーあんな母親なんか・・と思いつつも、何故か考えるのは母のことばかり・・
別荘での憂鬱は、母が喜んで自分を追い出したのではないかーーそんな悔しさと寂しさが入り
混じり、キャシーのように、心からはしゃぐことができないでいるのだった・・

