半次郎の故郷、そして愛する家族に対する想いは、ひしひしと伝わってくるーーが同時に、自分
がしていた生業、そして、得た金子が酒代に消えてしまい、ほとんど残ってはいないことから悩む
半次郎を見かね、考章は協力を申し出る。
そしてそれは、けた外れだったーー彼が申し出たのは当座の資金ではない、一家が当分の間、
食うに困らないほどの額だった・・・
が、これには、温厚な半次郎が血相を変える。
初めて怒りを露わにする半次郎ーー!
ーー長屋での生活ぶりから、彼がかなり裕福な育ちであることはよくわかっていた。
しかし、自分はおんな子供ではない、彼の囲い者でもない、と詰め寄った。
ーー要は バカにするな とーーー
考章は考章で、金額の大小の感覚の違いに気づかされ、恥じ入ることとなる・・
いずれにせよ考章は、すでに肉親のように離れがたい思いを断ち切ったのだ。しかもその思い
は、半次郎が想像する以上のものだった。
最終的に、彼は考章の申し出を受け入れ、金額もお互いが歩み寄る程度の額に収まり、いよ
いよ別れの日がやってきた。
まるで、恋人同士が離れがたいように、その日、二人は互いの目を見合った。
涙をこらえるのがひと苦労な二人は、とりわけ、今生の別れになるとは思っていなかった、が、
万感の思いでーー考章は、半次郎の今後が気がかりで仕方がない、半次郎は、忘れ物をいつ
か取りに戻らねばならないという思いを胸に秘めたままーー立ち尽くしていた・・
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