考章の献身的な介護の甲斐あって、半次郎は元通りとまではいかなくとも、体調は回復、
精神的にも落ち着きつつあった。
考章が予想したごとく、追手も姿を現すことはなかった。
何か、晴れ晴れとした気持ちは考章の方で、半次郎の生来の気性が、伝わりでもしたかの
ようだった。
彼にとって、半次郎が気兼ねなく自分の下宿に留まったところで、一向に構わなかったが、
半次郎の方では、そうもいかない。
元気を取り戻した今、さて、いつまでも人の厄介になってはいられないーーそもそも、どう
して妻子を養ったものか・・二度と人斬りには戻れないのだからーー
彼がある日、これ以上面倒をかけるわけにはいかない、出ていく、と言い出した時、考章は
何故ーーと訝った。
食にも困らない、追手も来ないーー無一文の彼が、どんな理由から出ていこうというのか・・?
しかし、いくら向こう見ずな半次郎でも、そこまで無遠慮な頼みができるはずもない。
何より、妻子の顔も見たかった。
ーー多大な迷惑をかけたにも拘らず、代償も求めない考章という男に、なんて恩知らずな事を
言うのだろう、ということも分かってはいるーーけれど、その恩に報いるためにも、このままでは
いけないのだ・・が、ひとりになって、これからどうしよう・・・
考章は、ひょんなことから、命を懸けてまで守ることになってしまった半次郎という男に対し、
もはや、他人以上のーー兄弟に対して抱くような感情で向き合っていた。
確かにこれ以上彼を引き留めるわけにはいかないーーけれど、彼のその後、彼の家族も含め
心配の種は尽きない・・どうしたものかーー
別れるのは、身を切られるような思いではあったーーが、彼は ある決断 をすることになる・・
