空の彼方に⑳ 兄弟 | 前世の記憶 ~Past Life Memories~

前世の記憶 ~Past Life Memories~

占い師や精神科医に頼ることなく、自力で前世を蘇らせる方法。

他 映画、音楽、スポーツ関連記事も書いています。


考章の献身的な介護の甲斐あって、半次郎は元通りとまではいかなくとも、体調は回復、

精神的にも落ち着きつつあった。


考章が予想したごとく、追手も姿を現すことはなかった。


何か、晴れ晴れとした気持ちは考章の方で、半次郎の生来の気性が、伝わりでもしたかの

ようだった。

彼にとって、半次郎が気兼ねなく自分の下宿に留まったところで、一向に構わなかったが、

半次郎の方では、そうもいかない。

元気を取り戻した今、さて、いつまでも人の厄介になってはいられないーーそもそも、どう

して妻子を養ったものか・・二度と人斬りには戻れないのだからーー


彼がある日、これ以上面倒をかけるわけにはいかない、出ていく、と言い出した時、考章は

何故ーーと訝った。

食にも困らない、追手も来ないーー無一文の彼が、どんな理由から出ていこうというのか・・?


しかし、いくら向こう見ずな半次郎でも、そこまで無遠慮な頼みができるはずもない。

何より、妻子の顔も見たかった。


ーー多大な迷惑をかけたにも拘らず、代償も求めない考章という男に、なんて恩知らずな事を

言うのだろう、ということも分かってはいるーーけれど、その恩に報いるためにも、このままでは

いけないのだ・・が、ひとりになって、これからどうしよう・・・


考章は、ひょんなことから、命を懸けてまで守ることになってしまった半次郎という男に対し、

もはや、他人以上のーー兄弟に対して抱くような感情で向き合っていた。


確かにこれ以上彼を引き留めるわけにはいかないーーけれど、彼のその後、彼の家族も含め

心配の種は尽きない・・どうしたものかーー


別れるのは、身を切られるような思いではあったーーが、彼は ある決断 をすることになる・・