空の彼方に⑰ 仁・義 | 前世の記憶 ~Past Life Memories~

前世の記憶 ~Past Life Memories~

占い師や精神科医に頼ることなく、自力で前世を蘇らせる方法。

他 映画、音楽、スポーツ関連記事も書いています。


居酒屋で見かけただけにすぎない人斬りの浪人風情を、命を懸けてまで守ろうとした考章の

真意はわからない。

ただ、その暗い表情から危険を察知し、後まで付けてしまった挙句・・・いくら名も知らぬ他人

とはいえ、目の前で無抵抗に殺されるのを放っておくことは、何としてもできなかったーー

自分がその瞬間何をどう叫んだかなども、ほとんど記憶していない・・・


しかし彼は、自分の住む長屋に彼が死んだように眠るのを見ても、厄介なモノを背負い込んだ

などとは、少しも思わなかった。

彼の留守中、もしかしたら、追手が尋ねてくるかもしれないとも考えなかった。

無責任ということではなく、彼の 『根拠のない自信』 がそう思わせた。

なので、眠り続ける彼を下宿に置いて、普段通り、いつもの時間に学校?に出かけたりも平気で

したーーー


にも拘らず、やがて目を覚ました彼の側には、運のいいことに、考章が居る。

半次郎は、覚えのない男の部屋に寝ていることに、驚く元気もなかった。また、考章の方も、彼に

飯の世話をする以外、余計なことは一切言わなかった。


・・・一度、死を覚悟した者の心情とは、こんなにも淡々としたものなのだろうか

自分は生きているーーあの武士は自分を斬ったのではなかったのか・・・?


最初のうちは、飯にも手を付けずーー実際空腹を感じることすらなかったーー黙々と、家事をする

見知らぬ男の様子を見るとはなしにぼんやりと眺めるーー

何か、独り言のように話しかけられるが、返事はしない。

やがて男は、どこかへ出かけていく。

ひとりになる。

そんな日々が続いた。


ある日、外が騒がしい。何か、昂ぶった話し声も聞こえてくる。

半次郎は、久しぶりに緊張したーーここに 『彼ら』 がやって来たのかもしれない・・!


が、男の声ーーこの部屋の主だーーが、ひと際大きく響いたかと思うと、いきなり騒ぎは収まった。

足音が去るーー

すぐに扉が開き、例の男が入ってくるが、様子はーーいつもと変わらない。


いったい何が・・・?


考章は、無表情だった彼が、もの問いたげにしている様子を初めて見た。

そこで、彼の仲間が 『危ない男』 を隠しているという情報を突き止め、親切?な助言をしに

来たことを、包み隠さず話した。

自分が、西洋の学問を学ぶため、ここに来ている学生であることも伝えた。


精神的に追い詰められ、平常心を失っていた半次郎は、これを機に、ゆっくりではあるものの、

徐々に彼に対して心を開くようになっていくのだった・・・