意気揚々と上方への一歩を踏み出した男性の腰には、父から授かった日本刀。
懐には・・・わずかばかりの小銭。
旅立ちの日から、どれ程経ったのだろうかーーその日、まだ太陽が頂上に上りきらないうち
から、青年のお腹は音を立てていた。
視線の先には一軒の茶屋ーー
僅かなお金を使い切ってはいけないと、やせがまんし、お茶だけを頼んだ。
運んできたのは、彼より少し年上の女性ーーーしかし、彼のやせがまんぶりを見た彼女は、
ほどなくして彼の妻になるーーー
このあたりの詳しい経緯は視えなかったが、大体以下のようなことだと思われる。
ーー彼が上方へ向かうという初心を断念したわけではなかったが、いくら義に篤いとはいえ、
やはり、全財産を放棄した状態で長旅に出る事自体、無謀な試みであったと思い知らされた
ことは間違いない。
世間知らずの若者ではあったが、茶屋の娘はそんな気立ての良い?彼を放っておけなかっ
たのかもしれない・・
はりきって故郷を旅立ったにも拘らず、上方行きなど夢だったかのように、茶屋の娘と結婚、
子宝にも恵まれ、災害によって失った家庭を、新たな形で再び手に入れることになるーー
幸せな家族との生活ーーしかし、運命の歯車は、再び大きく狂い始めるーー
そしてその発端は、皮肉にも、自分の最大の誇りである 剣の腕前 に因るものだった・・
