上方(かみがた)とは江戸時代に大坂や京都を初めとする畿内を呼ん
だ名称。広義では、畿内を初めとする近畿地方一帯を指す語。
天皇の住む都を「上」とする事から用いられ、特に江戸幕府は三河国
(愛知県東部)以西の五畿内・三州を、「上方筋」と定義した。政治的な
中心である江戸に対し、古くは経済・文化的な中心地・先進地域を指す
語として用いられた。
五畿内 ※( )内は現代の相当領域
大和国(奈良県)
山城国(京都府南部)
摂津国(大阪府北中部の大半、兵庫県南東部)
河内国(大阪府東部~当初は南西部も含む)
和泉国(大阪府南西部~大和川以南)
三州
近江国(滋賀県)
丹波国(京都府中部、兵庫県北東部、大阪府北部)
播磨国(兵庫県南西部)
財産も家族も失い、一人で生きていかねばならなくなった前世の青年にとって、故郷で職を探
そうにも、彼にできることは何もなかった。
ーーまだ20才にもならない彼にとって、しかし、未来は揚々として見えた。
父に一目置かれた剣の腕前、それは彼の自信の源ーー上方という、まだ見ぬ都会?は、大き
なチャンスを与えてくれる憧れの地だった・・
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婆やは、自分に差し出された重い袋の意味を知って、卒倒しそうになった。
金銭が欲しかったわけではない、額の大小でもない・・・大地震から九死に一生の命を授かっ
たのにーー無一文で、どうやって上方まで辿り着こうというのか・・!
青年は、驚き、恐れ、頑として拒否する婆やをなだめた。
ーー自分は19歳とまだ若い。何としてでも生きていける。決して心配などしないでほしいーー
のような意味のことを言いーー実際彼はそう思っていたーーそれに対して、年老いた婆やの
今後を憐れみ、手元にまとまったお金は無くなるけれど、これからいくらでも稼げるーー
そう説得した。
晴れ晴れとした顔で手を振り、やがて小さくなってゆく『坊や』の後姿ーー
婆やは袋を胸に抱きしめ、溢れる涙を拭おうともせず、立ち尽くしていた・・

