地震の際、偶々外に出ていたため、命を救われた少年(すでに青年 この時19歳)ーー
屋敷に居た両親と幼い妹は、崩落した建物の下敷きになり、この世を去ってしまう・・
天涯孤独となった青年が、悲しみからどのようにして立ち直ったのか、また、肉親の死後、
いったい何があったのか、詳しくは視えなかった。
が、次に視えてきた場面は、惨禍よりどれほどの日数が経ったのかはわからないものの、
その日、彼が、長年屋敷に仕えてきた婆や?と、別れの挨拶を交わしているところだった。
彼女も、運良く屋敷の外にいて、災いを免れたひとりだ。
この日、天気も上々、青年の心の中は整理され、悲しみも癒えていた。
そればかりか、晴れやかな気持ちで、自身の門出を迎えているーー
方や、婆やのほうはといえば、涙に暮れていて、まるで幼い子どものように、まともな話し
すらできない状態だ。
ーー実の子よりも可愛い坊や!が、たったひとりで上方(かみがた)へ旅立つことを、喜ぶ
べき立場なのに、坊やの身の上が心配でたまらないのだ。かといって、全てを失った彼に、
自分ができることは何もない・・仕えるべき主がいないのなら、自分は故郷の身寄りを頼っ
て去るしかないーー
長い間婆やをなだめていた青年の顔に、ふと明るい笑顔が浮かんだ。
そして、懐からずっしりと重い布袋を、彼女の前に差し出したーーーそれは、彼に残された全
財産ーー旅の資金にする予定のものだった・・・
