その日、少年は飼い犬を連れ、ひとり山を歩いていた。
振り返ると、屋敷の庭に生えている桃の木ーー子どもの頃から、その実をかじる
のが楽しみだったーーが見える。
しばらく勾配を登っていくと、見晴らしのよい頂上に辿りつくーーその時だった・・・
けたたましい鳴き声と共に、脱兎の如く駆け出す犬ーー
大声で名を呼んでも戻らないーー今来たばかりの道を、真っ直ぐ駆け下りていく。
ーー再び名を呼ぼうとして、少年は止めた・・それは、彼がある異変を感じたからだった。
・・不吉な予感は彼に、深くそれについて考える暇を与えなかったーー
地鳴りと共に揺れ始める足元ーー瞬間、脇に生えていた一本の細い木にしがみ
つき、すべり落ちないよう必死に自分の身を支えた。
ーー長い時間のように感じられた揺れが収まった時、我に返った少年の脳裏に浮か
んだのはただひとつーーそれは犬が向かった先ーー父と母の屋敷だった・・・!
無我夢中で山を駆け下りた彼が見たものはーー
重い重い、頑丈な造りの大きな屋根が、原型を留めたまま、無残に押し潰された屋敷
の上に乗っている光景だった・・・

