知らせを聞いて駆けつけた時、母は、水辺でうつ伏せにされていた。
小太りで、背も高くない母の髪や衣服は、べったりと濡れているーーー
彼の心に去来したものは、大きな悲しみと同時に、自分の身の振り方についての思い
だった。二十才を過ぎた彼は、今後どう生きるかを自分自身で決定することができるーー
・・彼は長い間、母と2人、ひとつのティーピーで暮らしていた。
父親は一族のリーダーだったが、多妻で他にも子があり、特に彼だけに愛情を注ぐという
ことはなかったーー母だけが、彼を大切に育ててくれた・・
ーー迷いは無かった。
愛を感じることもない、まるで、他人のような父親に未練は無い・・・
かといって憎しみを抱くほどの感情さえも芽生えないーーー冷徹な、哀しい
までの割り切り方・・
淡々としていた。
この日を境に、彼は、一族の地から姿を消した・・・
