この青年は、たったひとりで暮らしていた。
どの部族にも属さないーー
しばしば高い場所に身を置くのは、時には敵となり得る他部族の目に付きにくいし、彼らの
動向を覗うこともできるから。
ひとりで行動する以上、自分の身は自分で守らなければならない・・
ある日、見覚えのある赤い衣装を纏った部族の一団が、眼下に見えた。
ーーそれは、自分がかつて属していた部族ーー
しかし、彼の心を揺さぶるようなものは、何ひとつ沸き上がらなかった。
自身が生まれ育った故郷とも呼べる部族に対して、何の思い入れも無いとはーー
彼に、そんな感情を失わせることになる出来事は、母を亡くした日にまで遡る。
事故だったーー毎日のように、食用となる魚を獲っていた川の水辺に、母は横たわっていた・・

