In Russia, Skating Booms Again ④
『ライバル心というものは、必要よ。』
リピンスキーは言う。
『私の場合は、ミシェル・クワン だったわ。彼女が厳しいトレーニングを積んでいることは
判りきっていたから、一日たりとも練習を怠けるなんてことはできなかったーー
ロシアの女子選手達にも、それが判っていると思うの。いつでも、自分に取って代われる
誰かが存在すると考えたら、うかうかしてはいられない、人より少しでも上手くなろうとす
るでしょう。』
リプニツカヤは、競技会において、最も成長した選手だろう。
子供のような体型ながら、肩にはしっかりとした筋肉がついている。彼女は他の選手達とは
違って、会話していると、それによってトレーニングの時間が数分でも割かれる事が心配で
たまらない様子が強烈に窺える。
彼女の、ベストを目指す気力の源は何かと問うならば、彼女の母親ーーダニエラの解説を聞く
のが “ベスト” だろうーー。
先月、リンクに居合わせたダニエラに訊ねると、肩をすくめてこう答えた。
『しっかり教え込まれたら、“熊” でも氷の上でダンスするようになるわ。』
トクタミシェワやラジオノワが、ハイテンポなフラメンコスタイルの伴奏曲(カラオケ)を好むのに
対し、リプニツカヤは、ジョン・ウイリアムズ作曲による、映画“シンドラーのリスト”のテーマ曲
で滑る。
※10月に、スケートカナダ(グランプリ・シリーズ)で優勝して以来、優勝を重ねる毎に自信を
深めていったリプニツカヤ。フィンランディア杯と、ロステレコム杯でも優勝、ヨーロッパ選手権
で女王に君臨することになる前のロシア選手権では、優勝したソトニコワに、僅か1.96点差
(ソトニコワ 212.77 リプニツカヤ 210.81)に迫る2位となっていた。
『スケーティングを変えると同時に、自分も変わったわ。』
ロシア選手権を数日後に控えていた時だった。
『ちゃんとした大人の思考に切り替えたの。』
彼女の強みは、確かな技術と身体の柔軟性だったーー彼女がスピンする時、脚を完璧に真っ
直ぐ、垂直に上げるので、回っている間は彼女の顔が脚に隠れ、ぼやけて見えるほどーー。
しかし、表現力の欠如が、批判の対象となっていた。ーーが、それは、ブダペスト(ヨーロッパ
選手権)で克服されることになる。
『まだ子供なのに、大人の課題を自分自身に課していたわ。』
コーチのトゥトベリーゼは言う。
『そんなところが、頑なだと思われるのね。』
オリンピックでは、ベテランであり、年上でもあるスケーター達と闘わなければならない。
ほとんどの専門家達は、そのライバル達がミスを重ねることがあって初めて、銀、もしくはそれ
以上を狙うことが可能となるだろう、と予想する。
しかし、彼女はそれでは満足しないだろうーー
ロステレコム杯で、前世界女王カロリーナ・コストナーを破って優勝したにも拘らず、試合後
ひどく取り乱していたーー2つのジャンプで “へま” をしたのだ・・
『あれが、切っ掛になったんだと思うわ。』
リピンスキーは、彼女のリアクションについてそう言う。
『彼女こそ、“小さな”オリンピック・チャンピオン かしら・・?』
※原文が 9月 になっているが、正しくは10月と思われる
