ジャムカが帰路を急いだ理由ーーそれは、遠征前の用事を早く済ませ、自分の隊に
再び合流したかったからだ。
すでに一介の兵士ではないーー隊を率いる立場になったため、その責任感からだと、
誰しも思うだろうーーが、実は、そうではなかった。
そこには、ひとりの女性の存在があったのだ・・・
ーー短い期間に目覚しい昇進を遂げたジャムカは、直属の上司と対等に近い立場で
話せるようになっていた。
そして、その上司には、ひとり娘がいた。
が、その姿は、まるで若い戦士と見紛うようなものだった。
ーーー長い黒髪をきりっとまとめ、背筋をぴんと伸ばして騎乗し、所属する男ばかりの
荒々しい部隊のゲルを縦横に駆け巡る。
背はすらりと高く、眼差しは鋭いーーそして
惜しみない美貌に溢れたその姿は、ジャムカに大きな衝撃を与えた・・!
父の新しい部下であるジャムカーーー昇り龍のような出世を遂げた屈強な男を前に
しても臆することなく立ちはだかり、今にも切り殺さんばかりの気迫を漲らせている。
女が戦に向かうことなど考えられないが、女性でありながら、男と対等に戦いたいと
願い、部隊へと押しかけてきた男まさりの娘は、父を悩ませた。
女性は弱く、男性はそれを守るものーーーといった概念を根底から覆す娘の存在は、
ジャムカのある種傍若無人で、常に自信に溢れた性格とシンクロするような、まるで
双子のような関係に見えた。
しかし二人は、出会いの瞬間から反発しながらも、同時にお互いの存在を強く意識
するようになっていくのだった・・・
