ジャムカが、足繁くツェツェクの住居に通っていた頃を思えば、今回の帰還は
ツェツェクにとって、絶望的とも思えるほどの日数を重ねていた。
母が、娘を想うあまり、つい激しい口調になったのも、もしこのまま、あの兵士が
戻らなかったらーー純粋無垢な彼女の心にどんな打撃を与えるかしれない・・
そう思うと、いてもたってもいられなかったからだ。ーー
恋人の帰還は、いつもと違っていた。
以前なら、真っ直ぐツェツェクのゲルへと戻ってきていたのに、今回は、一度ゲルを
通り過ぎている。
ジャムカの帰還を知った少女は、彼の元へと駆け寄った。
しかし彼は、差し出された花飾りには目も呉れず、道を急ぐから泊まれないと告げる。
ショックの色ががありありと窺えるツェツェクに哀れみを抱き、『また近いうちに』 と
つけ加えたが、彼女の瞳には涙が浮かぶーー
逸る心を抑えられないジャムカは、しかし手綱に手をかけた。
慌てて花飾りを持たせようとする少女ーーーが、次の瞬間、それは二人の手からすべり
落ちた・・
地面に散らばる花を拾おうとするツェツェクーーが、ジャムカは、それを待つことなく騎乗、
後塵を残して、あっという間に遠ざかってしまうーーー
その場に呆然と立ち尽くす少女は、蹄に踏みにじられた花々を、それ以上拾おうとは
しなかった・・・

