健康づくりのため登山を選んだのは、車で10分も走れば登れる、しかも短時間で登頂できる手頃な山が近くにあったことーー1~2時間以内で登って下りてくることができれば、往復の移動時間を含めても半日も要しないーー残された時間で家事や買い物、モーニング?までこなすことができる。
また、低山であることから、頂上に立っても地上との温度差がほとんどないため、本格的な登山(数千メートル級の)に必要な、高価な装備を必要としないーーーせいぜいトレッキングシューズ(これは絶対必要)と、吸汗速乾のトレーニングウエアさえあればよいという、お財布にも優しいことなどが理由だった。
子どもの頃から親しんできた山で休日、マイナスイオンのシャワーを浴びつつ、ひとり気ままに、頭の整理もしながら、静かな木洩れ日の中に身を任せることは、私にとって大きな楽しみであり癒しでもあった・・
そんな山での不思議体験2つ目は、今から5年前ーー山登りを始めて間もない時、初めての夏を迎えた頃のことだったーー
蒸し暑い中、中腹辺りまでやっと辿り着いた頃ーーー気温は30度を超えていた。
15分も登れば頂上ーーそう思いつつ、登り始めから襲ってきていた通常でない疲労と息苦しさに、登頂を断念すべきか、根性で登るべきか、迷っていた。
ーー30分もあれば登りきることのできるコースーーそんな山を諦めるなんて・・・中途下山する姿を他の登山者に見られるのも恥ずかしいし・・・
逡巡しつつもとりあえず立ち止まり、水分補給することにした。
ふと見ると、狭い山道を挟んで向かい側、見晴らしの好い場所に、赤いTシャツを来た男性がひとり、私に背を向けて立っている。
水筒片手に、私同様休息しているようだ。
私は、男性が動くのを待ったーーー
妙なプライドに拘る私は、もし下山するなら、誰もいなくなった時に限る、と思ったからーー
逆に、男性がいつまでも動かなければ、登るしかないーーと・・
男性はしかしそのまま、登るでもなく下るでもなくーー動こうとしない。
その間も、上り下りする登山者が脇をすり抜けて行った。
私は疲れきったまま逡巡し続けていたーー
あれ・・?
ーー気づくと、いつの間にか男性の姿が消えている・・・
ほんの数分間だったはずなのに、男性が登り始めた姿も下山した姿も、そのどちらも見損なっている。
男性は、横に張った枝の向こう側にいた。下りるにしても登るにしても、取り敢えずその枝を迂回しなければならない。目の前にいたも同然のその人が、幅2メートルにも満たない山道で動く姿に全く気づかなかった・・・?
ともかくも、その男性が消えたことによって、行き交う登山者も途切れたその瞬間、世間体を気にする必要もなくなった私は、下山する決心をすることになったーー。
ーーがーー
帰宅した後も、何故か男性のことが頭から離れないーー
よそ見していた間に歩き出しただろう男性を見損なっただけにすぎないはずなのに・・・
どうにも気になって仕方がなかった私は、翌週、男性が休んでいた場所、そして私が立っていた場所を不確かな記憶を頼りに捜してしてみることにした。
たかが30分で登れる山のことーー短い距離なのだから、難なく見つかるだろうーーそう思っていた。
ーーーところが・・
ーー記憶している構図ーーー枝が大きく横に張り出した木が立っているーー
場所は確かにあったのだがーーー
その枝の向こう側は崖になっていて、人が立てるスペースなど存在しなかった
のだ・・
そんなバカなと思われるだろうが、一番そう思っているのは私なのだから、ならば別の場所かもしれない、あの場所かもしれないーーと、その後も登る度しつこく何度も何度も捜してみたが、人の立てるスペースのある場所は木の枝がない、木の枝のある場所はスペースがないか、記憶している構図とは違うーーといった具合にどうしても見つからない・・・
結局未だに見つけることができないでいるーーーあれから5年も経っているというのに・・
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男性の存在が切っ掛けとなって私が下山したことを考えれば、男性は私の身を案じて表れた
守護する存在 だったのかもしれないーー
ーー標高3百メートル程とはいえ、30度を超える気温に身体が対応しきれていなかったことに加え、当時服用していた薬の副作用も重なり、負担は相当だったにも拘らず、大したことはないと考えていた。
ーー何度も登頂を重ね、体力もつき、自分の限界点もよく判っている今なら、迷うことなく下山していたーー
あのまま登っていたら、非常にまずいことになっていたかもしれないと思えば、当たらずとも遠からずーー
それともやはり、男性の存在が消えた、などありえない、結局何もかもが勘違いだったーー?
しかし私の中では、後者を正解だと思いたくない気持ちの方が強い。
というのは
守護する存在 または 茶目っ気たっぷりに人間にいたずらを仕掛けに来る不思議な存在
があるとしたらーーー不思議だけれど、それは
面白くて そして私を何かとても 嬉しい気持ち にさせてくれるものだからだ・・
