大抵の場合入り口にあるATMしか利用しない銀行に、用事で店内にまで入ることになった。
番号札を取り、待合の椅子に腰掛ける。
子ども連れを含む女性客の多い店内をぼんやり眺めていると
2~3才と思われる幼い男の子に目が止まったーー
手前のベンチソファーに両肘を付き、可愛らしい顔でしきりと高窓を見上げている。
ーー春というのに、冬のような寒さが続いているせいか、男の子は上品な紫の
ロングコートを着せられていた。
男の子の方も、母がいようが居まいがおかまいなく、暫く高窓を眺めた後
ひとりでATMの方に向かった。
途中、やっと届く高さのカウンターテーブルに一度手を乗せたが、またソファーに戻ってくる。
そして再び、他のものには一切目もくれず、視線を斜め上に向け、その高窓のみを
眺め始めたのだ。
ーー高窓とは、白い壁に囲まれた銀行の、天井近くに設けられた明かり取りの窓だ。
特に幼児の興味を引くような、特別なデコレーションを施されたものではないーー
白枠に縁取られた四角い窓で、透明なガラスをはめ込んだものが横一列に
並んでいるだけ。
ーーー私が何も感じなければ、ただただ愛らしい男の子だとしか思わなかっただろうーー
けれど、最初に男の子を見た瞬間から、その仕草があることを意味している
と直感してしまったために、通常の感覚では見られなくなってしまっていた・・・

