江戸の隠密⑨ 上司城に上がる時は、松五郎も袴を履いてきちんとしている。 夏のある日、城の一階の板戸がすべて取り払われ 広々としたいくつもの部屋に、涼しい風が通っていた。 部屋で一人かしこまり、緊張していると 襖が開いた。 顔を出したのは、拍子抜けするほど 気さくな、どこにでもいるようなおじさん。 上司とはいえ、現代人と変わらない。 武士だからといって、将軍を前にしている ような時でなければ、しかつめぶっていない というのには、はっとさせられた。