辺りを生暖かい空気が漂い

鼻をくすぐるような感覚がすると

空からポツリと雨が降り始めた


周りの人々は各々鞄から折り畳み傘を取り出したり

手に持った荷物を盾にして小走りになったりする

そんな光景を眺めながら駅のコンコースを歩く


仕事が上手くいかなくて落ち込んでるさなかの雨

撥水性のコートを濡らす春の雨は

今の感情の表れだななんて思ったりして


まさかね なんて鼻で笑いながら

それでも何故かワクワクしてしまう


この雨が誰かの足を止めたり

感情の荒みを洗い流してくれたら


忌み嫌われる天気の中

普段は疎まれている一人が笑う

それって なんか気持ちいい



それは綺麗な装飾が施されていて

透明感の溢れる写真が表紙の本だった

名のある文学賞に選ばれた新人作家であると

帯に赤い文字で宣伝文句が並んでいた


ハードカバーで重みがあり

本としての存在感を纏っている

本文の8割を情景描写に使われ

作家の書評に踊る文字のように

感情は拝され線だけが動く描写


主人公の感情を吐露する事が目的でなく

彼を取り巻く情景を描写することに専念された文章

そこに描かれる描写には感情が込められているが

それが何処の誰のものであるのか

著者本人が反映されているであろう部分もあれば

それは 何処かの誰かのようでもある


読者に求められているモノが何であるか

“共感”と呼ばれるひどく曖昧で不確かな

意図的であるか否かではなく

ただそこに記されている文字の羅列が持つ意味

現在は小学生だって作家であり表現者なのだ


良いか悪いかという尺度ではなく

“共感”できるか否かという

虚構を埋めるタメの何かを欲する

現代人の根源的な欲望


満たされない何かを埋めるタメに

カネを払いナニかを買う

感情を欲を音楽を時間を力を場所を



雨と泪-crea


日々を包む陽気は

少しずつ穏やかさを増して

たまには近所を散歩するのもいいななんて

思いながらバイクショップへの道を歩く


そこはレトロな造りの店舗で

少し前までオーナーが経営していた

ハンバーグ店を改装した事務所だった


一昔に流行ったアメリカンタイプの帽子と

オイルで薄汚れたダウンを着た店主

趣味の延長から始めたようだ


先日高校の同級生と遊んだ帰り道

バイパス沿いのその店に並ぶバイクを見かけた

ベージュ色したトゥディに似たデザインのそいつを

僕はなんだか気になったのだった


前々から歩いていくには少し遠く

車で行くには近い場所

主にはレンタルショップや映画館なのだけど

原付があると便利だなぁなんて思ってた


そんな矢先の出来事だったので

休日を使って何日かそのお店に通ってみたのだ

中古のバイクだからそこそこ安い値段で買えて

動けばいいやなんて感覚でいたのだけれど

ショップの店主は色々と教えてくれた


僕の気になっていたバイクの名前はクレアだという事

中古だからどうしても故障箇所が出てくる可能性がある事

4ストロークで環境に優しい事

2ストロークはエンジンオイルとガソリンを混ぜて動く事

バッテリーは動かさないと駄目になってしまう事

整備をしてみたところ多少のエンジンオイルの漏れがある事

などなど


何も考えないで買おうと思っていた自分は

なんだかバイクに対して申し訳ない気持ちになった

これから乗っていく相棒の事をもう少し勉強しないといけないな