アラフォー獣医師 浜崎菜央です。
みなさん、子犬や子猫が簡単に産まれて育っていくと思っていますか?
病院でも飼い主さんから、
「お産させようと思ってるんです」
と相談されることがあります。
お産をさせることに関しては、反対ではありません。
お家で家族で出産の経験をするということも、大事な勉強になると思うんです。
ただし、
「わんちゃんは、安産の神様になるくらいだから、安産なんでしょう?」
って言われることがあるんです。
このお話は結構多くの方から言われます。
が・・・
全くの迷信です。
わんちゃんだって、『難産』になることも多くあるんです。
特に流行っている犬種によっては、『難産』になる確率が上がります。
フレンチブルドッグやパグなどの短頭種(鼻が短い犬種)やチワワは、難産になることが多くあります。
それなのに、
「交配して、時期が来たら、勝手に産んで育ててくれるんでしょ?」
と言われることがあるんです。
『難産』になれば、
陣痛促進剤を使ったり、帝王切開になったりするんです。
ましてや、短頭種(鼻が短い犬種)の子たちは、体の構造的な問題から、麻酔のリスクが高いので、
帝王切開となったら、親子ともにリスクが高くなるわけです。
ねこちゃんだって一緒。
『難産』で帝王切開になるケースだってあります。
そして・・・
産まれてからは安心というわけでもありません。
母性本能があまりない子の場合は、
産まれてきた子を受け入れられず、パニックになり、
全く面倒をみない『育児放棄』というパターンだってあります。
それに、
ちゃんと産まれてきたとしても、
兄弟の中で個体差があり、みんな平等に育たないことだってあるのです。
もしも未熟児で一人だけ産まれてきた場合、
兄弟に押しのけられて、ちゃんとミルクを飲むことができず、
ただでさえ小さい体なのに、痩せて弱ってしまい、
本能的に弱っているなと感じた母親は、見放すことだってあるのです。
野生の場合、
これを『自然淘汰』と呼び、
亡くなった子がいたとしてもやむを得ないと判断されます。
野生ではなく、人間の生活の中で飼われている子たちの中には、
ちゃんと犬らしく猫らしく育てられていない子もいます。
しつけもできていなければ、人にべったりで、分離不安気味という子だと、
子育てをすることが難しいケースも多くあります。
なぜなら、子供を育てることよりも、人にべったりしていたいから・・・
(みんながみんな上手に子育てできるとは限りません。人も一緒ですよね)
いろんな理由があって、
簡単に産まれて、簡単に育つとは限らないんです。
さて・・・
産まれてきた子たちが育ったとして・・・
その子たちはどうするつもりか?
考えていますか?
「だいたい何頭くらいなのかしら?」
という質問もよく受けます。
何頭生まれるかわからないんです。
1頭のこともあれば、10頭のこともあります。
だいたいお母さんが何人兄弟だったかでわかるとも言われていますが、
絶対ではありません。
(頭数が多いとお世話も大変)
もしも、予定していた頭数よりも多く産まれた場合、
里親に出すお家のあてはあるのでしょうか?
産まれて離乳するくらいまでは、だいたいお家で面倒をみてもらうのですが、
生後2ヶ月くらいまでの間、一緒に過ごすことで、
情が湧いてきます。
もしも里親さんが見つかっていない場合、
「可愛すぎて残しちゃおうかしら」
なんて言われるケースもあります。
そう思う気持ちはわからなくないですが・・・
ちゃんとこの先ず~っとどんなことがあろうとも、
みんなを平等に、不自由させることなく、育てていく自信があるのであれば、
それはそれでいいと思うのです。
ただし、その場でそう思っていたとしても、
いつ我が身に何が起こるかわかりません。
自分が大きな病気をしてしまい、飼うことができなくなるかもしれない。
そうなったときに、代わりに面倒をみてくれる人がいますか?
そこまで考えてほしいのです。
「またまた大げさな・・・」
と言われるかもしれませんが、
実際産まれた子を全部育てるとおっしゃって、
きちんと考えてもらい、結論を出した上で飼われることとなったのですが、
数年後、ご自身が病気をして、面倒が見れなくなったらしく、
「もらってくれる人を探して欲しい」
と相談を受けたことがありました。
え~っ!
と言われるかもしれませんが、
いつ何が起こるかわからないものです。
きちんと最悪の状況になったときのことを考えて、
計画的にお産させてもらいたいと思っています。
冒頭にもお伝えしましたが、
私はお産を家族みんなで経験することが悪いとは思っていません。
反対でもありません。
命の誕生は感動的ですし、
たとえ難産だったとしても、
うまくお母さんが子育てできずにお手伝いすることになったとしても、
それを家族みんなで乗り越えられたら、
それは一つの大きな経験なのですから。
だけど、起こりうることを考えて出産に挑んでもらわなければ、
何か起こったときに、
「こんなはずじゃなかった・・・」
と言われても、どうすることもできないんです。
そういう方に限って、
「育てられないので、預けたいのですが・・・」
と相談されるのですが、
「えっ。無料じゃないんですか?」
と言われるのです。
赤ちゃんの人口哺乳は、決して楽ではありません。
4~5時間おきくらいにミルクをあげなければならないし、
ミルクを上手に飲んでくれたらいいのですが、飲まない子だっています。
そして、そんなゴクゴク飲むわけではないので、ある程度の時間はかかりますし、
兄弟が多ければ、その時間は人数分発生するわけです。
そして、ミルクをあげた後は、排泄の処理もしなければなりません。
ティッシュでトントンして、おしっこやウンチを促して処理をする作業が必要になります。
これも人数分ね。
夜遅くや朝早くも必要になります。
どれだけ時間を拘束されるでしょうか?
睡眠も削って面倒みることだって必要になりますよね?
それを無料で
と言えてしまうのは、
大変さを体験していないから。
私はお産をさせたいと相談されたら、
このお話もさせていただいています。
最悪のパターンも考えてほしいから。
それも含めて、命を受け入れられるのか?
それも含めて、経験するつもりでいるのか?
考えてほしいから。
命を授かるということは、
命を育てるということは、
簡単なことではありません。
でも、大変なことがあるから、命の大切さ、重みを知ることにもつながるのだとも思っています。