短編小説 | ビックの短編小説

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5分読み切りなので楽しんで下さい!

私はスプーン。ごく一般的な、ステンレス製のディナースプーンだ。
​普段はキッチンの引き出しの中、プラスチックの仕切りの中で仲間たちと横たわっている。お隣のナイフたちはいつも「俺の切れ味はどうだ」とツンツンしていて気難しいし、フォークたちは「今日は何を刺してやろうか」と野蛮なことばかり話している。それに比べて、我々スプーン一族は丸く、穏やかだ。誰も傷つけることなく、ただ優しく包み込み、すくい上げる。それが私の誇りである。
​私のスプーン生において、最高に楽しい瞬間。それは何と言っても「プリンの海」へダイブする時だ。
​持ち主である小学三年生の女の子、ミオちゃんの小さな手が私の柄を握る。そして、カラメルの香ばしい匂いが漂う、あのぷるぷるとした黄色い大地へ、私の丸い頭がゆっくりと沈み込んでいく。あの絶妙な抵抗感! なめらかなカスタードが私の顔に触れる時の冷たくて甘い感触。そして何より、それを口に運んだ瞬間の、ミオちゃんの「ん〜っ!」という至福の笑顔。
​私のピカピカに磨き上げられた顔には、彼女の満面の笑みが、魚眼レンズのように少し歪んで、そして上下逆さまに映り込む。その笑顔を見るたびに、私は「スプーンに生まれて本当に良かった」と心の底から思うのだ。冬の朝の温かいコーンポタージュの温度や、夏のかき氷のシャリシャリとした感触もたまらない。
​しかし、良いことばかりではない。スプーンの日常には、悲しみや恐怖も隣り合わせだ。
​一番悲しいのは、お父さんが夜食でレトルトカレーを食べた後だ。お父さんは、鍋の底に残ったカレールーを、私を使って「ガリガリガリッ!」と力任せに削り取る。やめてくれ! 私の自慢の滑らかな肌に無数の擦り傷がついてしまう! と声なき声を上げるが、お父さんには届かない。
​さらに恐ろしいのは、その後の「流し台での放置」である。冷たい水が張られたボウルの中に、ネギの切れ端や油汚れと一緒に、一晩中沈められるあの孤独。暗く冷たい水底で、「明日の朝、ちゃんと洗ってもらえるだろうか? このまま錆びてしまうのではないか?」と震える夜は、本当にやり切れない。フォークの奴らは「隙間にご飯粒が挟まって最悪だぜ」と文句を言うが、私からすれば、ただの凹みである私の顔にこびりついた乾いた米粒を、硬いスポンジでゴシゴシと力いっぱいこすられる屈辱の方がよっぽど辛いと思う。
​さて、そんな喜びと悲しみを繰り返していたある日の午後。
ミオちゃんが引き出しを開け、私をそっと取り出した。
​「おっ、今日はおやつかな? プリン? それともアイスクリーム?」
​私は胸を躍らせた。しかし、食卓の上にはお皿もカップもない。ただ何もないテーブルの前に、ミオちゃんはちょこんと座った。
彼女は両手で私の柄をしっかりと握りしめ、私の丸い顔を、目の前でじっと見つめ始めた。
​(えっ、なに? 私の顔になにか付いてる? 洗い残し?)
​私は少し恥ずかしくなった。しかし、彼女の視線は私の顔ではなく、私の「首」——つまり、丸い部分と細い柄の境目あたりに集中している。
​「んんんん……っ!」
​ミオちゃんが息を止め、眉間にシワを寄せて唸り声を上げ始めた。
すると、どうだろう。熱いスープに浸かっているわけでもないのに、彼女が見つめている私の首のあたりが、ポカポカと異常に熱を持ってきたのだ。いや、熱いだけではない。金属の分子がムズムズと動き出すような、今までに味わったことのない奇妙な感覚。
​「ふんっ!!」
​ぐにゃり。
​えっ?
視界が急激に反転した。天井の照明が見える。あれ、自分の柄が見えるぞ。
なんと、私のまっすぐで美しかった首が、背中側に向かって見事に180度へし曲がってしまったのだ!
​「お母さん! できた! やっと曲がったよ!」
​ミオちゃんが立ち上がり、私を高く掲げて歓声を上げた。台所からエプロン姿のお母さんが飛んできて、目を見開いた。
​「まあ、ミオ! ついに超能力が目覚めたのね! お父さんに似て遅咲きかと思ったけれど、こんなに綺麗なU字に曲げるなんて、才能あるわよ!」
「えへへ、明日学校でユウ君に見せてやるんだ!」
​……超能力? スプーン曲げ?
​現在、私はキッチンの引き出しにはいない。
リビングのガラス製飾り棚の中、赤いベルベットのクッションの上に誇らしげに鎮座している。私の隣には、お父さんが中学生の時にスクリュー状にねじり切ったという、先輩のフォークが飾られている。どうやらこの家は、代々超能力者の家系だったらしい。
​もはやスープをすくうことも、大好きなプリンの海に潜ることもできなくなってしまった。それは少し寂しい。
しかし、この家に遊びに来るお客さんは皆、飾り棚の私を見て「お嬢さん、素晴らしい念動力ですね! 美しい曲がり具合だ!」と感嘆の声を上げてくれる。美術品として褒められるのも、まんざらでもない。
​ただ一つだけ問題があるとするなら。
たまに夜中、誰もいないリビングで「ずっとこの姿勢だと首が凝るな。少し伸ばしたいな……」と背伸びをしようとするのだが、どうにも自力では元に戻れないことである。