#75 激突! Duel (1971) | 映画の楽しさ2300通り

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ある映画好きからすべての映画好きへの恋文
Love Letters to all the Movie Lovers From a Movie Lover

ジャンル:モンスター(※1)
製作国:アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
愛するポイント:テレビから劇場に昇格したスピルバーグのデビュー作にして最高傑作は「ジョーズ」の原典?

 



前回の記事「天邪鬼?食わず嫌い?観ようと思わない人気の映画たち」lで書いたように、「激突!」はスティーブン・スピルバーグ監督作品中、最も好きかつ唯一の"愛する映画"です。

もともとはテレビ映画として作られ、あまりの面白さに劇場公開された(※2)というスピルバーグの商業映画デビュー作は、リチャード・マシスン(「ヘルハウス」の原作者)の短編小説「激突!」(原題は映画と同じく"Duel")を原作としています。映画が面白かったので原作も読みましたが、よく出来た原作をストーリーを膨らませながら見事に映像化した好例だと思います(※2)。
マシスンは脚本も担当しているので、自分のストーリーを上手に映画向きに手直しした可能性もありますが、ここは映画を作る才能が人一倍(十倍?百倍?)豊かなスピルバーグのリードによるものだと考えて間違いはなさそうです。
というのも、作品のコンセプトが後年の大ヒット作「ジョーズ」に似ているから。どう似ているのかはぜひ一度観てみてください。残酷なシーンや流血シーンがないので安心しておすすめできます。

主役のデニス・ウィーバーは(ある年齢以上には)テレビドラマシリーズ「警部マクロード」でおなじみでしょう。本国ではマクロードの放映とほぼ同時期に放映された本作では、警官としては型破りながら割と悠々おっとりした感じのマクロードとはかなりキャラの違うセールスマンを熱演しています。
もう一人の主役はほかでもない大型トレーラータンクローリー(ピータービルト281)、なので一人ではなく一台というべきですが、これがともかく怖い。ディーゼル車なのでしょうが、排気筒が車両側面に直立して配置されており、そこから吐き出されるスモークがまるで野獣(怪獣?)の熱い吐息のように見えるので、やはり一台というよりは一匹もしくは一頭というべきかもしれません。

そんな怪物トレーラーと乗用車(プリムス・ヴァリアント)との決闘(Duel)をテレビ映画用に、つまり大画面の迫力に頼ることなく緊迫感あふれる映像に仕上げたスピルバーグの力量は並大抵のものではありません。そんなスピルバーグですが、「激突!」が劇場でも公開されることになったとき、もともとの74分の上映時間では短すぎると90分に再編集させられた(※3)そうです(Wikipediaの受け売り)。
今ならディレクターズカットとか言われるのでしょうが、当時売り出し中のスピルバーグが作品が認められた嬉しさに嬉々として再編集する姿が想像できます。それらの事情を知らずにロードショウ公開で観た自分は一部に不自然なシーンつなぎ(カメラワーク?)があるように感じたのですが、テレビ版を劇場版に編集したせいもあるのでしょうか。

その後、本作とはまったく関係のない「続・激突!/カージャック」も面白く観、「ジョーズ」も「未知との遭遇」(大学のゼミの課題作でした)も楽しめましたが、「1941」でがっかりし、その後の作品については前記事のとおり。

ですが、「激突!」を作ったということでスピルバーグが気になる映像作家の一人であり続けることはまちがいないでしょう。

※1:これまでジャンルは"なし"としていましたが、記事を書くうちに"モンスター"映画だと考えるようになりました。
※2:とはいえ、アメリカ全土では劇場公開されていないようです。その辺りの事情や裏話は日本語版Wikipediaに詳しく載っているので、興味のある方には一読をおすすめします。
※3:これもWikipediaの英語版によると、劇場版にするために継ぎ足されたいくつかのシーンがまさにサスペンスの盛り上げに一役買っているらしく、原作を超えたスピルバーグの力量を示すものでしょう。

 

※写真は公開当時のパンフレット。改めて読んでみたらスピルバーグに関する言及はパンフ全体のうちのほんの数行でした。