アラン・ドロンふたたび | 映画の楽しさ2300通り

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アラン・ドロンは、248本の愛する映画(2023年5月29日現在)に8本がエントリー(※1)しているくらい好きな俳優(ちなみに最多はクリント・イーストウッドの11本※2)なのですが、14年ほど前には「ドロンのかなわぬ夢と哀しみ」と題した記事にこんなことを書いていました。

主役でありながらこれほどラストで死ぬ人も珍しいと思います。(中略)手放しで好きといえないのはただそのためです。

ハッピーエンドが好きなミーハー映画好きにとって、主人公が死んでしまう結末は悲しすぎて愛する気持ちになれない、ということでした。とはいえ愛する映画でも8本の出演作のうちの4本(どれとは言いませんが)ではラストで死んでしまいます。
さらに、ドロンはスター俳優と競演すると食われがち、と感じていました。「さらば友よ」と「レッド・サン」のチャールズ・ブロンソン、「仁義」のジャン=マリア・ヴォロンテブールヴィル、「冒険者たち」のリノ・ヴァンチュラ、「レッド・サン」の三船敏郎など。そんなことを言うようでは大ファンとは名乗れないのではないか、という気がしていたのです。

それから13年余り、今では考えが変わりました。

主役を務めながら死んでしまうのは、ドロンのなかなかにつらい生い立ちと、努力しても報われないことの多い弱者たちを愛し応援する姿勢の表れだし、共演者の方が光って見えるのはドロンがあえて相手を立てているから。その証拠に観終わってある程度時間がたってみると、共演者の好演と同等かそれ以上にドロンの容貌と立ち居振る舞いが印象的に思いだされるのです。

ということで、大ファンだというカミングアウトをためらった罪滅ぼしに、愛する映画以外の彼のおすすめ作品を9本、(邦題のあいうえお順に)紹介します。

暗黒街のふたり(1973)

地下室のメロディー」、「シシリアン」に続いて大御所ジャン・ギャバンと組んだ作品。このときはギャバンがお客さんという立ち位置でありながら、やはりギャバンと怪演のミシェル・ブーケに食われ気味と思いきや、抑えた演技で存在感を存分に示しました
後に挙げる「泥棒を消せ」と似たテーマであることも、ドロンの弱者に対する共感(マルコヴィッチ事件の影響があるとも言われています)を顕すものと思います。
監督は小説家でもあるジョゼ・ジョヴァンニ

サムライ(1967)

「仁義」に先立つジャン=ピエール・メルヴィル作品。当時"サムライ"がどれだけ国際的に好イメージに受け止められていたかがわかるタイトルですね。

ドロンはもちろん、ストーリー運びも演出も一級品ですが、何度観ても殺し屋ジェフ(ドロン)の行動に納得がいかず、2つ☆(大好き)にとどまっています。
DVDに録画したのでもう1度は観るつもりです。

シシリアン(1969)

知る限りではかなり珍しく本格的に悪党役を演じた作品。日本ではともかく本国ではドロンの人気を上回っていたというジャン=ポール・ベルモンドもこういう役は演じていない(難しい?)と思われる、通常とは別の意味で胸キュンの作品です。
ここでもギャバンとヴァンチュラがおいしい役をいただきましたが、今はそれこそがドロンの力だと迷わず言えます(ファンですから)!
監督はノワールの名匠アイリ・ヴェルヌイユ

スコルピオ(1973)

脇役として出演した「山猫」の主役バート・ランカスターと真っ向勝負のスパイアクション映画。ランカスターはヴェテランの味でしたが、これはドロンの脂ののった若さ(37,8歳)が光りました
ランカスターの西部劇「追跡者」を撮ったマイケル・ウィナーが監督しています。

泥棒を消せ(1965)

ドロンの初期のハリウッド進出作のひとつ。監督が「野のユリ」「不時着」「ソルジャー・ブルー」などの話題作を撮ったラルフ・ネルソンの割にあまり知られていないようなのは、前出の「暗黒街のふたり」同様話が暗いからでしょうか。
自分が"旋条痕(ライフルマーク)"を知った最初の作品です。

ビッグ・ガン(1973)

殺し屋を演じることが多いドロンですが、ここではイタリアン・マフィアのヒットマンを演じ、一匹狼の壮絶な闘いを繰り広げます。
監督のドウッチオ・テッサリは往々にしてアクションシーンが絵空事になりがちなマカロニ・ウェスタンを多く撮っていますが、現代劇である本作ではリアルで迫力のあるアクションを見せています。

フリック・ストーリー(1975)

刑事役のドロンに対し、悪党に扮したジャン=ルイ・トランティニャンが本当に悪くて怖いキャラを好演(怪演?)し場面をさらいましたが、逆に演じても面白くなりそうなところをおいしい方をトランティニャンにあげたと考えます(ファンですから)。
自伝の原作(ロジェ・ボルニッシュ)があるせいか、刑事対悪党という図式ながらアクションに頼りすぎないストーリー展開が見どころです。
監督は「ボルサリーノ」のジャック・ドレー

リスボン特急(1972)

「サムライ」「仁義」に続き、ジャン=ピエール・メルヴィルと組んだ作品。前二作とは異なり刑事(Un Flic。原題)に扮しました。

メルヴィル演出は導入部からさえわたりましたが、敵役のリチャード・クレンナとの間に立つカトリーヌ・ドヌーヴが華やか過ぎた印象でした。
メルヴィルの世界は良くも悪くも"男の世界"で女性は厄介者、のような気がします。

ル・ジタン(1975)

「仁義」以外ではあまり見なかった口ひげと言い革ジャンと言い、"悪い二枚目アクション俳優"ドロンの魅力炸裂。まずはビジュアルを御覧じろ。


※ロードショウ公開時のパンフの表紙

 

ジョゼ・ジョバンニの小説「気ちがいピエロ」(ゴダールの「気狂いピエロ」とは別物です)を設定を変えてジョバンニ本人が脚色・監督した作品で、ポール・ムーリスも好演していますがここはドロンがしっかり画面をさらいました。

以上9本ご紹介しましたが、これらの中でも6本(どれとは言いません)ではラストで死んでしまいます。つくづく死ぬのがお好きとみえますが、上記で推察したような彼なりの想いがあるのでしょうね。

※1:さらば友よ、ジェフ、仁義、太陽がいっぱい、冒険者たち、山猫、レッド・サン、若者のすべて、の8本

※2:アウトロー、ガントレット、グラン・トリノ、荒野の用心棒、続・夕陽のガンマン/地獄の決斗、ダーティハリー、ダーティハリー3、ダーティハリー4、ペイルライダー、ミリオンダラー・ベイビー、許されざる者、の11本