婦人代議士アンジェリーナ L'onorevole Angelina (1947) ☆☆ | 映画の楽しさ2300通り

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ある映画好きからすべての映画好きへの恋文
Love Letters to all the Movie Lovers From a Movie Lover

ストーリーまでネタバレしてます。ご了承の上お読みください。

格安セットで購入したDVDの中から、またまた"めちゃくちゃ面白い"映画を見つけてしまいました。

婦人代議士アンジェリーナ」はアンナ・マニャーニ主演、ルイジ・ザンパ監督のイタリア映画。戦後間もないイタリアで、身を粉にして働きながら警察官の夫と乳飲み子を含む5人の子供を世話し、大雨が降れば水害が起きるような劣悪な居住環境で家庭を切り盛りする女性、アンジェリーナ(マニャーニ)が、貧乏人を搾取しながら、自分たちは食事も満足にできない困窮にも水害にもさらされることなく、豪勢な生活を送る金持ちたちがのさばる格差社会に、ごくまっとうな怒りをぶつけ、さらに行動に移したことから、同じ境遇の庶民たちに政治家として世直しすることを望まれ立ち上がるストーリー。

もちろんことはそうすらすらと運ぶはずもなく、もとより代議士になろうなんてつゆほども考えていなかったため計画性も何もない彼女の道行きは平たんではないのですが、とにかく彼女と彼女を取り巻く(多くは女性の)庶民たちのパワーがすごい。

一方、どんな時代・体制においても、心ならずも体制側の味方・手先にならざるを得ない警察官、それも上級の立場ではない夫は愛する妻との確執に悩み、現実的でちゃっかりした息子は母の人気を利用して小悪事に走るという哀しいリアリティに加え、美人の娘は体制側の建設会社社長の息子に見染められ、というありがちな展開も加わって、笑えて泣けるユーモラスでシリアスなドラマになっています。
ステレオタイプなのかもしれませんが、イタリア人気質なるものをふんだんに見られるのも痛快です(個人的には韓国ってアジアのイタリアだよな、と思うことしきり。半島気質?)。

ルイジ・ザンパの演出は、ロベルト・ロッセリーニヴィットリオ・デ・シーカが代表するネオ・リアリズモの飾らない力強さをもって観るものをひきつけます。たぶんプロではない一般人も多く参加していそうな群衆場面には既視感があり、派手さはないのに迫力がある映像を作っています。

気性はまっすぐだがそれだけに人の好さもあるアンジェリーナは、信じた人々に裏切られ、結果として信頼を寄せてくれた仲間を裏切ることになり、夫に逮捕までされて絶望の底に沈みますが、善良な魂はやはり善良さによって救われ、逆転勝利が訪れます。彼女への信頼をさらに高めた仲間たちは政治家への道を期待しますが、アンジェリーナは今の自分には政治家としての能力はないし、政治活動よりは家族との生活が大事、と政治家(代議士)への道を放棄します。
家庭を守ることの大切さゆえに大義を捨てたように見えなくもないですが、まったくそうではなく、政治に参加するのは政治家だけでなくむしろ庶民であること、庶民は議事堂ではなく家の中から道端から現場から声を(場合によってはこぶしを)挙げ続けることをたくましく宣言した結末でした。