#35 お熱いのがお好き Some Like it Hot! (1959) | 映画の楽しさ2300通り

映画の楽しさ2300通り

ある映画好きからすべての映画好きへの恋文
Love Letters to all the Movie Lovers From a Movie Lover

ジャンル:一般犯罪
製作国:アメリカ
監督:ビリー・ワイルダー
愛するポイント:脚本の妙、役者の芸、演出の快、よりなによりマリリンの魅力!

何はおいてもマリリン・モンローの魅力満載。有名な「ププッピドゥ」は彼女のオリジナルではないそうですが(映画ではドリス・デイが先と「ザッツ・エンタテインメント」で観たような記憶が…)、本作でマリリンバージョンが観られます。
実は芝居もうまいのに、強烈なセックス・アピールゆえになかなか演技者として認められない恨みがあったと伝えられる彼女ですが、本作では吹っ切れたように自然に色気を振りまき、かつさわやかで気力も充実しているように見えました。

ビリー・ワイルダー得意の艶笑喜劇ですが、ギャングの抗争がらみなのでスラップスティック・コメディとしても上出来。トニー・カーティスジャック・レモンは後年「グレートレース」でも共演していますが、シリアスな役も性格俳優的な役もこなす彼らがこれだけ体も使えることに脱帽です。
往年のギャング映画で鳴らしたジョージ・ラフトの起用も成功。楽屋落ち的な楽しさもありますが、さすがに若い(あまり昔の映画を観ない)映画ファンにはピンとこないかもしれません。
もうひとり、ジョー・E・ブラウンが傑作なんですが、主に戦前に活躍した人でほかにはどんな作品にでているのかわかりません。英語のWikipediaを見たところ、「八十日間世界一周」に出演していましたが、昔観たきりなだけに印象に残っていませんでした。

脚本(ワイルダーとI・A・Lダイアモンド)のよさと言い、役者たちの達者さと言い、演出のテンポのよさと言い、コメディとして申し分ないのですが、今回「愛する映画」としてご紹介するにあたって作品を振り返ってみたところ、「青い体験」や「イタリア式離婚狂想曲」と同じく、無邪気におすすめできない気がしてきました。
というのも、ラブコメディとしての根幹にあたる部分、マリリンとトニー・カーティスの恋愛に、女性蔑視と捉えられかねない部分があるからです。

マリリンが若干"足りない"役であることは、別に女性に限ったことではないことから問題ないと言えるかもですが、そこにつけ込むトニー・カーティスのやり口がいかにも昔の男女関係のステレオタイプ。個人的にも若干引っかかる展開ではありました。

ワイルダーらしくひねった面白さはあるものの、現代の視点からは肯定しかねます。同じくワイルダーの「麗しのサブリナ」のように"恋愛映画”とは呼びにくい(ので"一般人が主役の犯罪映画"に分類しています)のもその辺の事情があるためです。


作品成立が1959年と古いことから、当時の社会状況に照らしてスタッフ/キャストたちの意識が低いせいとばかりは言えませんが、当時はともかく現時点で、ジェンダーギャップの解消を目指す人々が観れば不快感を持つだろうと感じました。
となれば、自分が楽しむのはともかく他人におすすめするのははばかられる、ということで、若干腰が引けたご紹介となりました。