仁が一緒に住むようになってから、ALIの家で目に見えて変化したことは
千代が早起きをし、家族のために朝食を作るようになったことだ。
今までの千代はビデオ店の閉店が深夜12時を過ぎることもあって
ALIが登校してから起床する生活がここ何年も続いていた。
病的に低血圧だった千代にとって朝早く起きる生活は負担だったが
自分を選んでくれた仁のために、なるべく普通の家庭を演出したかったのだろう。
1日2食、(うち1食は給食なのだが)
それが日常だったALIにとって
みんなで囲む食卓が日に2回に増えたことは苦痛でしかなかった。
千代が自分のためには起きれなくても
仁のためには起きて朝食を用意できるんだという心の変化も受け入れられなかった。
あげく、仁は何かにつけて、ALIの存在をけなす。
食べ方だったり、会話の内容、口のきき方ひとつにしても。
例えば、ALIと千代の共通の会話
ALIの友達や勉強の話などを持ち出そうものなら
自分にわからない話をするなとさえぎり
ALIの友達やその親まで、アホだのバカだのと言って罵った。
仁の実の子供と違い
公立のごく普通の中学に進んだALIの話など聞くにも値しないものだったのだろう。
ALIは私立の中学を受験する成績もあったし、ALI自身もそれを望んでいたが
千代は両親のそろった面接があるから無理だと
それをあきらめさせた背景があるにも関わらず、だ。
とにかく仁はALIの仕草や、行儀については
まるで動物といるみたいだとあざ笑い、
ALIの友人に対しては親の代から学歴がないと言い
ついでに実の子供の優秀さを自慢し
何の配慮も遠慮もなく、ただALIのコンプレックスを増長させていった。
仁の嫌がらせとも思えるALIに対する態度は、
千代とALIの関係
決して自分が割って入っていけない聖域のような
母子の愛とか絆に対する嫉妬からくるものだった。
一緒に暮らすことになって、彼は日々それを実感したのだろう。
千代もALIのなるべくそういうものを仁に見せないようにしてはいたものの
と言うより、仁がこの家で一番偉いのだと何事も最優先させてきたのに
時々、デザートのぶどうの数がひとつ多いだの
ALIに買った犬が自分になつかないだの
熱を出したALIの心配を千代がしただけでも
仁は事あるごとにかんしゃくを起こしていた。
仁の暴れ方は異常で
最初は人間の自尊心を傷つけるような発言から始まり
最終的には気の済むまで暴力で相手を押さえつける。
暴力は、ただ叩くだけのこともあったし、物を投げることもあったし
蹴ったり、髪をつかんで引きずり回したりすることもあった。
ALIは仁の暴れそうな雰囲気を察知すると、自室にこもったが
間に合わなかった時は大人しく嵐が過ぎ去るのをじっと耐え
何が正しいか正しくないかは深く考えず
ただ機嫌を損ねた事に対しての謝罪をした。
「養ってくれてありがとうございます・・・(本当の親子でもないのに)」
「愛情のある体罰を、どうもありがとうございます・・・」
何度そうやって、仁にも自分自身にも言い聞かせたことだろう。
本当の親子ではないという事実は千代に固く口止めされていたため
それを盾に反抗することもALIには出来ない。
でももしもALIが反抗すれば、
そのツケは躾が悪いと千代への暴力に向かうことは明白だ。
まさに同居してからの生活は千代にとっても、ALIにとっても地獄だった。