先週、2021年本屋大賞受賞のこの映画を観に行って来ました。原作の方は、もう3年も前に読んでいるので、おおまかな流れしか覚えていませんでしたが、映画を観ながら「あれ?こんな人出て来たっけ?」と「こんな展開だったっけ?」と思う事が何度かあり、自分の忘却ぶりにあきれ果てました。

 

母親が再婚し、母親とその結婚相手から虐待を受け続け、あげくにその義父が寝たきりになったら、貴湖がその介護を一手に引き受ける事になり・・・という映画の冒頭は、なかなか衝撃的で、一気に映画の世界観に引き込まれました。

 

原作はかなりヘビーな小説でしたが、推し俳優の宮沢氷魚が出てるので観に行きました。主人公貴湖を演じる杉咲花は、好きでも嫌いでもありませんが、やはりとても上手で貴湖になり切ってましたね。(今年の日本アカデミー女優賞に映画「市子」でノミネートされていたので、動画配信で観る予定です。〉その貴湖の恋人というか、貴湖を愛人程度にしか思ってないDV恋人を演じてるのが宮沢氷魚。役柄とは言え、かなりへこみました。

 

でも貴湖は、恋人を見る目はなかったけど、友達には恵まれてて、見晴や村中がずっと力を貸してくれてて・・・。そして何にも増して貴湖を一番大切にしてくれたのは志尊淳演じるアンさん事岡田安吾。志尊淳、よかったです。貴湖をどうしようもなく大切に思う気持ちと、どうにかして救ってあげたいという想いが交錯して、でもジェンダー問題を抱える自分では、貴湖を幸せにしてあげる事は出来ないと苦しむばかりで・・・。安吾の母親を余貴美子が演じていて、ジェンダーの子供を持つ母親の苦しさ・・・わかってあげたいけど、どうしてやる事も出来ない・・・辛さのようなものを滲ませて秀逸でした。

 

故郷の海辺の町に一人帰って来た貴湖は、母親から「ムシ」と呼ばれ続けて、声を出すことが出来なくなった少年(愛いとし)と出会う事によって、再び前を観て生きようと思えるようになるのです。少年に昔の自分を重ね合わせて、そして自分が昔安吾や美晴にしてもらったように、「ただただ普通に生きる事」の権利の機会を作ってあげようと奔走する貴湖。貴湖と愛(いとし)二人の未来に明るさが見えて来るラストにホッと胸をなでおろしました。

 

 

小説「52ヘルツのクジラたち」感想