2021年の「本屋大賞」を受賞した本作を読みました。母親が再婚して、母親とその再婚相手から虐待され続けて来た貴湖。義父が寝たきりになってからは、その介護を一手にひきうけ・・・。↑の説明書きの「自分の人生を家族に搾取されて来た」人生。そして母親から虐待されてムシと呼ばれている13歳の少年、愛(いとし)と貴湖が出会ったことによって始まる物語です。

 

祖母が残した海辺のボロ屋にひとり移り住んできた貴湖。貴湖は お腹を包丁で刺されて死にそうになった過去があるという事がわかってくるのですが・・・。一挙手一投足が監視されているような狭い村社会の田舎で、貴湖は 虐待されて話すことが出来なくなった少年と出会います。「孤独」という言葉では片づけられないような絶望を抱えた二人。

 

貴湖を愛人としてしか見ない主税(ちから)のDV、そんな貴湖を親身になって心配してくれる安吾が抱えていたトランスジェンダーの問題に 本人からのカミングアウトではなく、他人からのアウティング。今社会問題になっているヤングケアラーの事や、虐待はもちろん、虐待を知りながら見ぬ振りをするネグレクトなどなど、この物語には、虐待だけではなく、いろんな問題が書かれていて、途中読むのが辛くなる場面もありました。

 

タイトルの52ヘルツのクジラのように、仲間のクジラには届かない鳴き声のために、いっしょにいながらも、たった一頭(独り)でいるしかない孤独。でも貴湖は、愛(いとし)との暮らすために 前に向かって一歩を踏み出すのです、美晴や村中達仲間に助けられながら。でも・・・。と私は思うのです。どんなに家族や友達、仲間とつながっていても、私達は 自分の中のどこかに「52ヘルツのクジラ」の孤独を抱えて生きているんだ・・・と。

 

追伸

「本屋大賞」受賞作だけあって、ボディブローをくらったような読み応えのある小説でした。ですが好みから言えば、私は 大好きな作家で3位にランクインした伊吹有喜の「犬がいた季節」に本屋大賞を取って欲しかった。その次は 4位の伊坂幸太郎の「逆ソクラテス」。そして2位青山美智子の「お探し物は図書館まで」の次が「52ヘルツのクジラたち」の順かな~?あくまでも好みの問題ですが・・・。また7位凪良ゆうの「滅びの前のシャングリラ」も これから読む予定なので楽しみです。