魂の継承 | 続・阿蘇の国のアリス
ママはほんとうに
疲れているようでした。

いつの間にか
低く寝息がきこえてきました。

パパといっしょに
初めてきく寝息は
悪くはありませんでした。

息が苦しいだろうと思い、
羽根布団をまくり、
顔をだしてやりました。

微笑んでいたパパの顔が
固まりました。

ママは眠りながら
泣いていたのです。

目尻から
こめかみにむかって
光る筋が走ってました。

私はなにもいえませんでした。

私の死という
絶対の虚無のまえで、
なぐさめの言葉は
無力だったのです。


...ママが私を
握りしめたら...

旅の始まりです。






キラン♪


(いいお天気だね)




「見える?アリス」


(見えるよ)


(きょうは
どこまでいくつもりなの)


「大分までいこうと思って...。

ジュジュくんの
お誕生日プレゼントを買うの」

(そうか、お誕生日会か...。
私もいっしょに
お祝いしたかったな)


(...ここは、
ママのお母さんが、
ナナを買ったところだね)


「そう、20万だして買ったの...
それなのに、
野良猫になっちゃった」


「買って♪」


「買わない!」

「チッ...」


「血統証付きだよ♪」


「買わない!」

「チッ...」


「もう、犬は飼わないの?」


「当分ね...」


「それにしても、
シュシュくんと、マイクくん、
かわいいな。
ビスコくんと、
めいちゃんも元気♪」


「買って!」

「いいよ...」


ぼくはどうしても
大きな犬が好きです。

あの忠実さ、
あの善良さ、
そして情けなさ、

これがもう
犬好きにはたまらないのです。


ぼくは胸に手をあてました。

ねぇ、アリス。

ぼくはいつかまた、
犬を飼ってしまうのかな?

そのときは、アリス...
そう、呼んでもいいかい。

だってぼくは、
魂の継承を願っているからね。