アリスの表情が変わりました。
雲がでて急に日が暮れたように、
顔色が暗くなったのです。
「なにが起きた」
足のつま先が震えています。
大きな痙攣がつま先から
全身にのぼっていきました。
アリスはぼくを見あげています。
そのとき、ぼくたちふたりの心は
最悪の形でつうじあっていたのだと
思います。
アリスが考えていることは
しっかりとわかりました。
(死へのカウントダウンが
始まってしまった...)
ぼくも全身がしびれて身動きできずにいました。
しばらくのあいだ視線だけで、
うなずきあう時間が流れました。
自分の足に力がはいらなかったけれど、
なんとかアリスの肩に手をおきました。
ぼくの全身が震えていました。
アリスの身体も震えていました。
恐怖に打たれて、
アリスはぼくの顔を見あげます。
あのときの目の深さを、
ぼくは忘れません。
「パパ、私、死んじゃうの」
涙が両目から同時にこぼれました。
静かなリビングでぼくはひざまずき、
アリスの震える身体を抱き締めました。
ぼくたちは声を殺して泣きました。
この身体が熱を失い、息をしなくなる。
アリスがこの世界から消えてしまう。